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#12-3

達規への恋愛感情を自覚して一週間ほど経ったある日のことだった。 その日は土曜日で、俺は夕方まで部活をした帰り、繁華街へと足を運んだ。 スポーツ用品店でサポーターを新調するという目的を済ませ、ついでに大型書店とペットショップにも立ち寄った。福助のドッグフードを買ってくるよう頼まれていたので、何種類か物色してレジへ持っていく。 茶髪で長身の若い店長とは顔見知りで、会計の合間に雑談を交わしつつ勧められた新商品を追加で買ったりしていたら、店の外に出る頃にはすっかり暗くなっていた。 日が短くなっていく過程は毎日の部活で感じていたが、グラウンド以外の場所で体感すると、冬が近いのだとしみじみ思う。 十一月も半ばにさしかかろうとしている。冷たい風が首筋を撫でていき、仕舞いっぱなしのネックウォーマーをいい加減に出さなければ、とぼんやり考えながら停めていたチャリへと急ぐ。 ドッグフードの詰まった袋は予定外に膨らんでおり、チャリの籠になかなか上手く納まってくれなかった。 四苦八苦してようやく詰め込んだところで、ふと聞き覚えのあるメロディが耳に滑り込んできた。 ペットショップの隣の小さなレコード店には、あまり入ったことがない。 店頭に設置された小さな画面のDVDプレイヤーには、いつもハードロック系のバンドのライブ映像らしきものが流れていた。聞こえてきたのはそこから流れる曲だった。 ドッグフードの袋が籠から落ちない程度に安定しているのを確認して、俺はそのプレイヤーに近寄ってみた。 流れていたのはやはりロックバンドのライブの映像だった。 照明が赤や青やオレンジに絶えず色合いを変えながら照らす中、ギターをかき鳴らしながら歌う、黒いTシャツ姿の男。 どこかで聴いたことのあるそのメロディは日本語の歌詞を辿っている。しかしどこで聴いたのかが思い出せず、俺は記憶の海を探りながら、その映像にしばし見入っていた。すげえ、この歌ってる人、両腕タトゥーだらけだ。 サビらしき部分が終わり、カメラワークが引きになってステージ全体が映し出される。激しく動き回りながら演奏する四人のバンドメンバーの姿を見たとき、あっ、と一片の光景が掬い上げられる。 文化祭で達規と一緒に見に行った、軽音楽部のステージで聴いた曲だった。 間奏の特徴的なギターのリズムは、まさしく華丸ちとせが曲の一番初めにも弾いていたものだ。キツネ色のカーディガンに裾を折ったスラックスで、黒いギターを携えていた小さなシルエット。 芋づる式にいくつかのことが思い出された。赤い着物を着せられた達規のメイクの入った横顔。細い手首。数日前に俺に話しかけてきた華丸の、悠斗、という発音。 それを追い払うかのように映像を見つめて、いい曲だな、と思った。 DVDプレイヤーの画面や周りに目を走らせるが、バンドの名前や曲名がわかるようなものは何一つなかった。どうやら流すだけで売る気はないらしい。 曲が終わり、俺は店の前をあとにした。チャリに跨り帰路につく。

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