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#12-5

心臓が耳元まで移動してきたかのように、頭のてっぺんまで強く血が脈打つのを感じた。 さっきまで目を逸らしていたのも忘れて、ガラス張りの一点を凝視する。 座った達規の隣に立っていることを差し引いても、だいぶ背が高く見えた。よくわからないが洒落た雰囲気の髪型をしていて、すっと鼻筋の通ったにこやかな顔は、遠目にもわかるほど綺麗に整っている。 あまり思い出したくないが記憶の中の後ろ姿は、すらりと長身で。姉貴に聞いた限りの情報では、彼女が途切れない美形で、あだ名は何だったか、なんとか王子。 外見から得られる特徴の全てが、決して多くはない情報と合致していて、本当に俺の幻覚なんじゃないかと疑うほどだった。 頭を撫でられた達規は、不快げに顔を歪めながらも振り払うことはせず。それをいいことに男はそのまま輪郭に沿って手を下へ滑らせると、今度は指の背で頬のあたりをなぞった。 手はわざとらしく耳元を掠めて離れ、擽ったかったのだろう、達規はぎゅっと目を瞑って首を竦めた。 笑みを張り付けたまま何事もなかったかのように離れていく男を見つめながら、俺の頭の中は焼け爛れそうに熱くなっていた。 佐々井に頬を突つかれているのを見るだけで嫉妬が顔に出てしまう俺に、そんなのはもう、耐えられるはずがなかった。 正面から誰かが近づいてくるのに気づいて、はっとする。 信号が青に変わっていた。慌ててサドルに足をかける。 車道の向こうに渡ってしまうと、ガラス張りのコーヒーショップはよく見えなくなり、俺はそこでチャリを停めた。 大きく息を吸う。 冷たい空気が少しだけ頭を冷やす。 踏み込むべきじゃない。達規はこれ以上は望んでいない。そう思うと同時に、学祭の日の夜に聞いた言葉が蘇ってくる。 ――最近は、家呼ばれても、行きたくねえなあ、って。 俺が達規を救えるとか、どうにかしてやれるとか、今は思ってない。あいつが何考えてるのか全然わからなくて。 わかるのは言葉だけだ。あいつが言葉にしたことだけ。 俺にはあの台詞は、もうやめたい、って聞こえた。 でもどうしていいかわからない、って。 ポケットの底に沈んでいたスマホを取り出す。 トークアプリを開きメッセージを打ち込みかけて、やめた。文字では遅い。電話機のマークを躊躇いなくタップする。 耳に当てるとコール音。何度か繰り返された。スマホを見ていたからすぐに出るかと思ったが。 もう一度深呼吸をして、はやる気持ちを押さえつけたところで、やっとコール音が途切れた。 『……もしもし?』

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