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#13-4

そんな調子で、佐々井が俺と達規の間に挟まりたがるので、全くの断絶状態にはならずに済んでいた。佐々井のお陰というのも癪ではある。 しかし、教室ではやはり俺の方を振り向くことはなかった。プリントを手渡すときも完全にノールックだ。 今までは毎回毎回、必要もないのに肩越しに振り返っては、にやっとアイコンタクトを図ってきたり、居眠りしている俺の頭頂部を突ついてきたりしたくせに。 休み時間は佐々井に捕まる前に教室外へ逃げることも多かった。昼休みに至っては、チャイムが鳴ると同時に、メロンパンとカフェオレを抱えてどこかへ消えてしまう。 俺は三日連続で佐々井と二人きりの昼を過ごすこととなった。 「お前さ、マジで何したんだよ?」 デカめのタッパーにみっしり詰まったチャーハンをかき込みながら佐々井が言う。何度目かの問いではあるが、俺は当然はぐらかし続けていた。言えるはずがない。 「ま、言えねえならいいけどあ……」と引き下がる姿勢は見せつつも、やはり気になるらしい。 「ホント、達規があんな風になるの見たことねえからさあ」 壁に寄りかかり、床から浮かせた足を曲げたり伸ばしたりしながら、佐々井は自分の座っている席の主の話を続ける。 「あいつあんま怒んねえし、基本優しいし。たまに何考えてんのかわかんねえときあるけど」 そう言いながらプラスチックのスプーンにウインナーを乗せ、大口を開けて放り込んだ。 俺は黙ってネギの入った卵焼きを咀嚼しながら、その言葉について考えを巡らせていく。 達規があまり他人に怒ったりしないのは、やっぱりどこかで線を引いているからなんだろう、と思う。 他人の手の届かない位置に達規は飄々として立っていて、その顔は別に偽物ってわけじゃないけれど、薄い膜を一枚纏っている。 膜は半透明で、こっち側から見える達規の表情を、少しだけぼやけた虚像にすり替える。それをめくったところに本物の達規の顔があるが、誰も見たことがない。 キツネが猫を被っている。そんな言葉が浮かんだ。 「つーかお前、このままだと期末の英語、赤点に逆戻りじゃね?それはそれでうけるけど」 「うけねえよ、死活問題だよ」 「じゃあ早く仲直りしろって」 そこでやはり返答に詰まる。仲直りってどうやるんだ。唸りながらピーマンの肉詰めをかじる。曇った気持ちを苦味が増長させていく。 俺は達規の顔が見たい。 境界線を踏み越えて手を伸ばし、薄い膜を剥ぎ取って、本当の顔を見ながら話がしたい。

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