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#13-5

汗が冷える前にと、この時期の部活後はさっさと部室に戻るようマネージャーたちから尻を叩かれるのが日常だった。 今週末も試合がある。 ここ最近は緊張感のある練習が続いているが、終わったあとの部室では和やかな雰囲気になるのはうちの部の良いところだった。 汗を吸ったウエアを脱ぎ、タオルで拭いながら着替えのTシャツを引っ張り出す。 スマホに目をやると、何通かの新着メッセージの通知があった。アプリを開くと複数のアカウント名に新着アイコンが光っていて、その中のひとつに目が留まる。 達規だった。 一瞬の躊躇ののちに指を滑らせる。文章がふたつと、その下に写真が一枚添付されているようだった。 文章はどちらも、読むというより目に入った瞬間に意味が伝わる程度の短いもので、しかしその意味を正しく把握するまでに、俺の頭は数秒間を要した。 『福助に会いたい』 『連れてきて』 写真を開いてみると、写されているのは夜の公園だった。 公園の名前の刻まれた石碑と、緑がなく土が露出した状態の植え込み。奥にはブランコと滑り台。 見覚えのあるそれをしばし見つめて、俺の家の近くにある小さな児童公園だと気づく。 慌ててメッセージの受信時間を確認すると、十八時前となっていた。今は十九時四十分。 今もここにいるとすれば、二時間近く待っていることになる。 寝坊した朝のような速度でジャージを着、脱いだウエアやタオルをまとめて引っ掴んで、エナメルバッグに押し込んだ。 強引すぎたのかファスナーが布地を噛む。焦る指でなんとか外し、のんびりと着替え中のチームメイトをかき分けて出入り口へと向かった。 急ぐ俺を見た先輩に「どうした水島、彼女か?」と声をかけられるが「違います!」とだけ言い返す。「お先っす」と短く挨拶をして部室を飛び出した。 部活中は気にならなかったが、外にでた途端、冷たい空気が皮膚の下までじんわりと染み込んでくる。 もう冬は目の前だ。 この気温の中、達規はずっと待っているのかもしれないと思うと、気ばかり急いて全然身体が追いついてこない。 お前、すぐ風邪ひくんだろ。 チャリの後ろで寒い寒いと騒いでいた声を思い出す。すかすかの駐輪場に着き、鍵とチェーンを外して、急いでサドルに跨った。 一秒も早く行くことしか考えられなかった。 あまり速度の出ない安物のチャリがもどかしくなるほど漕いで、たぶん通学路での最速記録を叩き出したと思う。 自宅の玄関を勢いづいて開け、福助がやってくるより早くリードを手に取る。 いつもならランニングシューズに履き替える靴も、鞄もそのまま。家への滞在時間、数秒。すぐに飛び出し再びチャリに乗る。 普段は福助が俺のペースに合わせて走るが、今日は逆だった。福助がついてこられる速度を保ちつつ、可能な限りチャリを飛ばす。

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