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#13-7
息を吸う。PKを蹴る前の感じに似ている、でもゴールを狙っているわけじゃない。
「お前が言ったこと、考えてたんだよ、ずっと」
こっちを向かない達規に語りかける。
伝わらない言葉に価値はない。出さなきゃいけないのはパスだ。達規への、正確な。
「お前の病気って、どうやったら治せんのかなって」
しんどくないとダメな病気。こいつはそう言った。
しんどいくらい求められていないと、生きてるって思えない病気。
その言葉を聞いたとき、俺は何も言えなかった。達規に見えている世界はきっと俺のそれと全く違っていて、だから俺には、達規のためにできることは何もない。そう思って愕然とした。でも。
「よくわかんねえけど、恋愛って、しんどくねえ?」
誰かのことを想って苦しくなったり、笑っていてほしいと思ったり、それでいてその笑顔が自分以外に向けられることには嫉妬したり。
達規がいなければ俺は、その感情を知らないままだった。
「お前のこと、……好きになってから、ずっとしんどい」
ずいぶん前から好きだったんだと思う。気づくのに時間がかかったけれど、そして、自覚したらもっとしんどくなったけれど。
この感情は、たぶん、共有できるんじゃないか。求められるだけじゃなくて。
お互いに求めて、想っていたら、生きてるってちょっとは思えないか。
屈み込んだ達規はじっと動かず、福助だけが暢気に舌を出して、俺と達規を交互に見ていた。
伝わってほしい。祈りに似た気持ちを込める。
「お前も俺のこと好きになって、一緒にしんどくなんねえ?」
それ以外、俺にできるやり方を思いつかなかった。
言い切ってから、今更のように心臓が大きく鳴り始める。
左胸の奥でバクバクと、破裂しそうな激しさで拍動している。達規に聞こえてしまうような気さえした。
長く感じたけれど、実際にはきっとせいぜい数十秒だ。逃げ出したくなる沈黙のあと、達規がかなり控えめな角度で肩越しに振り向いて、吊り目の端にぎりぎりで俺を捉える。
「俺、口説かれてる?」
その声はさっきまでよりも少しだけ、いつもの達規の声に戻っていた。俺は「茶化してんじゃねえぞ」とだけ何とか言い返す。
「だって」
達規の腕に抱えられたその中で、福助がもぞもぞと身動ぎ始める。頭を撫でてやる達規の手は何となく上の空だった。
「わかんねーもん、水島、バカだし……」
「ああ? 関係ねえだろ」
「俺、黒髪ロングじゃねーし」
「お前が黒髪ロングだったら気持ちわりぃだろアホか」
こっちが真面目に話してんのに、ふざけてんのか、と思ったが。
身を乗り出して達規の顔を覗き込むと、その表情は至って真剣で、と、いうか。
眉間に思いっきり皺を寄せ、口をへの字に曲げて。
何かを堪えているような顔は、外灯の白っぽい明かりの下でもわかるくらい、耳まで真っ赤になっていた。
え、と思って俺が何か言うより早く、達規はまたしても福助を両手で抱き寄せる。もこもこした被毛の中に隠すように顔をひっつけて、
「とっくに好きだし……」
消え入りそうにそう呟いた。
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