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#13-8
今が夜で、他に誰もいない公園で、達規がこっちを見ていなくて、本当によかったと思う。
じわじわと顔に熱が集まるのがわかる。もしかしたら達規に負けず劣らず赤いかもしれない。
心臓の方はだいぶ落ち着いた。代わりに胸の中が焚き火みたいに熱くて、肺のあたりを締めつけられるような感じもあって、むずがゆい。
真っ赤になって俯く男二人。ふと気づけば福助が俺をじっと見ていた。尻尾をぱたぱたさせながら、にやにや笑っているように見える。
福助は長時間じっとしているのが苦手だ。達規の腕の間からするりと抜け出すと、後ろ足で背中を掻いたあと、リードの伸びる範囲をうろうろし始めた。
膝を抱えてしゃがみこんだ体勢のまま、残された達規はそこから動こうとしない。「こっち来れば」と声をかけるが、そっぽを向いたまま首を激しく横に振った。
「無理っ」
「なんで」
「む……無理なもんは無理」
絞り出すような声と、ふるふる振り続けられる茶髪頭。無理、の意味がわからず呆気にとられる。
すぐに理由に思い当たるも、当たっているとは思いがたく、しかしそれ以外に考えられない。
まさか、照れてんのかこいつ。ベンチの隣に座るだけなのに。
「普通だろ、別に、こんなん」
今まで散々やってたじゃねえか。チャリの二ケツもしたし、同じ部屋で寝たこともあるのに、今更すぎないか。
しかし頑なに地べたから動こうとしないので、俺が隣に行くことにした。
ベンチから立ち上がり、達規の真横にいわゆる不良座りでしゃがむと、「ふわあっ」と素っ頓狂な声をあげて飛び退いた。
「ちょっ……バカお前、マジ、無理だから!」
「うるせえ」
「うるせえじゃねえ! 寄って来んな!」
達規が距離をあけた分だけ、すかさず詰める。三度ほど攻防を繰り返すうち、ようやく達規と目が合った。情けなく眉を下げて、ちょっと泣きそうですらあった。
俺が達規の顔をまともに見られなくなったのと似たようなもんかと、そこでようやく思い至る。そうなると、悪いことをしたなという気持ちになって、それ以上追うのをやめた。
不自然な隙間をあけたまま、並んで地べたにしゃがむ様子を客観的に想像してみる。
達規のせいで、なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。
地面に向けて大きく息を吐く。微かに白いそれが一瞬で消えるのを見送る。照れ隠しのように空を仰いだ。
深い紺碧の空いっぱいに星が輝いていて、とても綺麗なことに気づいたけれど、このタイミングで口にするのはダサすぎるからやめた。
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