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#13-10

達規の案内で到着したのは、七階建てのそこそこ新しそうなマンションだった。白と黒のツートンカラーになった外観が洒落た雰囲気を醸し出している。 「ここの四階」 言いながら達規は外壁を見上げ、おそらく自宅の窓の明かりを確認したのだろう、「たぶんまだ帰ってねーな」と呟いた。 時刻は二十一時を回ったところだ。住宅街に人影はほとんどなく、コンビニの照明だけが誘蛾灯のように煌々としている。 「あいつんちってどのへんなの」 何気なく尋ねたら、達規は動揺の滲む声で「えーと……ここ」と言って、目の前の白黒の建物を指差した。 「は?」 「同じマンション。いっこ下の階」 「マジか」 「引くっしょ?」 別に引きはしないが、なるほど、帰りづらいわけだ。ここで鉢合わせたら逃げ場がない。 チャリを降りた達規が「送ってくれてありがと」と言うので、ちょっと待て、と制止をかける。 「部屋の前まで一緒に行く」 「え、……マジ?」 「同じマンションならそこまでしなきゃ意味ねえだろ」 言いながら急いでチャリをロータリーの隅に停める。達規は複雑そうな形に口をひん曲げて「……ありがとう」と小さく言った。 ボタンを押すとエレベーターはすぐにやって来て、静かに四階まで昇る。並ぶドアの三つめが達規の家だった。 「なんか、えーと、なんだ、お茶でも飲んでいかれます?」 「何だその敬語。帰りますんでお構いなく」 ポケットから鍵を取り出した手元と横顔を眺める。 ドアが開けられると、その向こうには真っ暗な廊下が冷たく伸びていた。 軽くなったチャリが三たび夜風を切っていく。 寒さはもう然程感じないが、心なしか背中側が涼しい感じはした。 白くなる息と雲ひとつない澄んだ星空。見上げつつ慣れない道を進んでいくうち、この小一時間ほどの出来事は全部夢だったんじゃないかというような気がしてくる。 数週間のうちに何度も見た、達規の出てくる夢のひとつに過ぎないんじゃないかと。 どこか朧気な心地で家まで帰り着くと、ポケットの中のスマホが震えた。達規からの新着メッセージ。いつになく長い文章が届いていた。 『送っていただきありがとうございました あと無視しててすみませんでした 明日から普通にできるよう努力します よろしくお願いします』 だからその敬語は何なんだよ。思わず小さく吹き出しながら、これが現実であることを実感する。 何と返事をしようか迷って、結局「はい」とだけ送った。 玄関を開けると、居間から漏れる光とテレビの音、夕飯の匂いが出迎えた。

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