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第4話

 殺気を感じて凍りつく。順平は、あやふやに首を横に振った。  恋心が暴走したがゆえの所業とはいえ、覗き見の現行犯だ。平謝りに謝っても赦してもらえないかもしれなくて、野良ヴァンパイアになっちまえ、と叩き出されたら、どうしよう。  舌打ちが轟き、怒りのオーラに鞭打たれるようだ。銀の弾丸を装填した拳銃が胸板にめり込んでいるほうがマシかもしれないと、おののくほど恐ろしい。  順平はおずおずと視線を上にずらし、すると水滴が鼻先をかすめてしたたり落ちた。洗い髪から垂れたものだ。それに気づくと、舐め取りそこねたのが悔やまれて身悶えをするようだ。 「待て、お手、伏せ、三べん回ってワン!」  反射的にすべてやってのける間に、レオンはバスローブを羽織っていた。ケチンボ、と口をとがらす順平を()め据えておいて、深いため息をつく。 「おれは厳密に言えば、おまえよりざっと百四十歳年上だ。物好きにしても限度があるぞ」 「時を止めた時点で俺は二十四歳、レオンさんは二十七歳。ばっちり恋愛対象です!」    跳ね起きたせつな、洗面器が額に命中した。カコーンと、とてもいい音がした。 「九十九田が周辺を嗅ぎ回っているのに色ボケてる場合か。おれたちは運命共同体、おまえがヘマをこいたら、おれまで芋づる式だ」  順平はパッと顔を輝かせて膝をにじらせた。 「俺はかけがえのないパートナーだと認めてくれてるんですね、そうなんでしょ。わざわざ念を押さなくても、健やかなるときも塵になるときもそばにいると誓います」 「自惚れるな。まったく、すぐ付けあがる」  と、冷ややかに切って捨てるのとは裏腹に、目縁(まぶち)が赤らむ。照れ隠しに憎まれ口をたたいたのは明らかで、順平は笑みくずれると、バスローブを皺くちゃにしながら下肢をかき抱いた。  レオンがよろけてもおかまいなしに、むこうずねに頬をすりつけて、熱っぽく囁く。 「下僕と呼ばれても本望です。でも、一年に一回……やっぱり半年に一回、贅沢を言えば月に一回くらいはイチャつきたいです」 「却下、却下だ。そういえば入浴の邪魔をしてくれた礼がまだだったな」

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