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第5話

 力任せに振りほどかれるが早いか突き倒されて、腹這いにひしゃげると、背骨を拳でぐりぐりされた。  順平は別にドMというわけではない。手加減してくれたとはいえ、ふつうに痛かった。  だが、たとえ逆さ吊りにされて、十字架でぺちぺち百叩きの刑に処せられたとしても、目はハート形を保っていただろう。  何しろ一世紀にわたって「好き好き」と言いつづけ、そのたびにニベもなく()ねつけられても心は一ミリたりとも折れないのだから、打たれ強い。片恋をこじらせた結果、脳内麻薬物質が分泌されるに至った。  さらに、さしずめクリスマスプレゼントの前渡しだ。順平的には愛の鞭が振るわれたさいに、棚ぼた以外のなにものでもない出来事があった。バスローブの裾がはだけた拍子に魅惑のゾーンが丸見えになり、眼福とタグづけしたい光景が展開されたのだ。  いろんな意味で頭がくらくらした。シモの毛も金色なんだ、だとか。ペニスは銜えごろサイズの可憐な印象だ、だとか。  奇蹟のひとコマをスローモーションで愉しんでいるのがバレたようで、今度は横隔膜が痙攣するまでくすぐりたおされた。 「あっ、もっ、ご無体な、ご無体な。どうか、お慈悲を、あっ、あぁん」 「いかがわしい悲鳴をあげるな。気色悪い」  足の裏、腋の下、と波状攻撃をかけられると限界だ。順平は泡を吹いて悶絶した。  すみれ色の瞳が、にわかに愁いを帯びる。金髪が順平の胸元で扇形に広がり、それはレオンが添い伏して頭を載せてきたためだが、感涙もののシチュエーションが実現したにもかかわらず、当の本人は気絶するついでに寝落ちしたあとだ。 「人の気も知らないで年がら年中、惚れただの腫れただのと、さえずって。能天気ぶりが癇に障るんだ」  のちほど順平は、やけにひりひりする頬に湿布を貼る羽目になる。寝ぼけて壁で髭を()いでいた、との説明に納得したが、実はレオンがつねったのだ。 「昔のおれは、はぐれヴァンパイアだった。世を拗ねて放浪し、孤独感に苛まれたあげく輝かしい未来があったおまえを、いわばエゴで自然の摂理に背く存在に変えちまった。負い目がある身で恋い慕われても、素直にうれしいと言えっこないだろうが」

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