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第6話
レオンは自嘲気味に嗤いながら、問わず語りに言葉を紡ぐ。
順平が超熟睡型で、懺悔しがてら真情を吐露するのにちょうどよい機会だ、と心の奥にしまってある箱の蓋が開いたふうだった。安らかな寝顔に向ける眼差しは、愛しさと切なさを等分にはらむ。
ともあれ霧雨にけぶる都 で出逢った当時、順平は外交官の卵だった。ひょんなことからレオンの正体を知ったときには驚きのあまりテムズ川に飛び込み、泳ぎに泳いだ。
血族となるか、精気を吸いつくされて骸 をさらすか、と迫られて悩んだのは一瞬のこと。
奈落の底までついていきます、と前者を選んで現在に至る。
要するに順平自身は恋に殉じて悔いなし、なのだ。現に次の休日の夜にはいそいそと買い物に出かけ、軽やかな足どりで帰宅した。
デザイナーズスーツでめかし込んでいるあたり、気合が入っている。果ては、とっておきの銀器にビロードのような花びらを盛りつけ、L字型に曲げた指を顎にあてがい、ドヤ顔でふんぞり返るありさまだ。
「ヴァンパイアに生まれ変わって百十一年の記念日です。正餐は伝統に則り、最高級の紅薔薇を一ダース用意しました」
馥郁と薫る薔薇のエキスはヴァンパイア酵素を活性化させる効果があり、精気に次ぐ好物だ。
だがレオンは眉根を寄せる。
「九十九田は恐らく花屋にも網を張っている。その線からアシがつく愚を犯して記念日だ?黙っていれば美男子の部類に一応入るおまえが、花束を抱えて歩く図は人目を惹く。ヴァンパイア道の基本を忘れて、どアホ!」
そう、禍々しいものとして迫害されてきた歴史がある種族が生き永らえるには、好奇心を刺激して記憶に残る真似は慎むに限る。
殊にヴァンパイア・ハンターの出没警報が発令されたからには、いくら用心しても用心しすぎることはないが、
「お祝いなのに、大切な日なのに……」
上目づかいにネクタイをいじりまわすさまは、叱られてしゅんとなったシェパードを髣髴 とさせた。
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