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第7話

 レオンは、どさりと椅子に腰かけた。そして沈鬱な面持ちで、こう言った。 「凶報が届いた。新米の同族が、おびき出されて捕まった」  捕まったと、おうむ返しに繰り返すと眩暈に襲われた。よろよろと後ろにずれて、太腿がテーブルにぶつかったはずみに銀器がひっくり返った。  花びらが舞う。レオンが銀の銃弾に(たお)れる場面と二重写しになりながら、はらはらと……。  縁起でもない、と順平は頭をひと振りした。 「九十九田が製薬会社と結託したと、もっぱらの噂だ。おれたちを生け捕りにして売り渡す密約を交わしたと。不老不死のメカニズムを解明すればアンチエイジングで一儲けができる。さもありなん、だ」    わが身が切り刻まれる場面を想像したのか、雪肌が蒼ざめる。順平は、こめかみを揉む指をそっと剝がした。  そして冷たい手を両手でくるみ、さする。 「真面目に話してるときに、なつくな。九十九田を始末するまで、おまえは外出禁止だ」 「それは俺の科白です。バイオレンス方面は俺に任せて、紅茶でも飲んでいてください」 「おまえは単細胞で、あっさり罠にかかるに決まっていて、危なっかしくて外に出せるか。ごねるなら特製の棺桶に閉じ込めて、山奥の洞窟で余生をすごしてもらうぞ」    棺桶とは、SF映画でおなじみの冬眠ポッドに相当するもので、そちらは光年単位で宇宙を旅する間の生命維持装置だ。  つまり、回りくどい言い方だが順平を匿いとおすという決意表明だ。  ふだんの順平は、つれなくされても嫌みを言われても笑って受け流す。だが記念日が台なしになって、やさぐれ気分だったせいで、カチンときた。 「わかりました、よぉく、わかりました。レオンさんの中で俺の位置づけは、気まぐれに可愛がる駄犬のレベルなんですね」  かつて徴兵検査に甲種合格した男とは思えない、情けない言い種である。 「駄犬だろうが三日も飼えば情が移る」    欠伸交じりの返答に、いじけ指数は百に達した。順平は、ぺこりと頭を下げた。 「独立する。今までお世話になりました」

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