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第8話

 啖呵を切って飛び出してきたものの、寄る辺ない身だ。イルミネーションに彩られた通りを行き交うカップルが羨ましいったら、ない。  空き缶を蹴り蹴り、行き当たった公園に入り、ブランコに腰を下ろした。空き缶を踏みつぶしながら、ぼやく。  確かにレオンは怜悧で、かつて欧州全土に広がった戦火をくぐり抜けることができたのも彼のおかげだ。  しかぁし! 俺だって益荒男(ますらお)の端くれ。いざというときには立派に騎士を務めてみせるのに馬鹿馬鹿馬鹿、レオンさんの馬鹿ぁ!  戯れにブランコを漕ぐと、鎖とともに心が軋めく。レオンひと筋百と十年。単細胞上等、俺の愛は不滅だ、ざまあみろ。  立ちこぎに切り替える。現在と過去の通い路をたどるように、ブランコが弧を描いて行ったり来たりするにつれて、手をたずさえてさすらいつづけた間のあれやこれやの情景が脳裡をよぎる。  人間を同族に迎えるときは、およそ千人分の精気を結晶化したように純度の高いものが必要だという。  それを三日三晩かけて体内にそそぎ込むのだとか。  その最中に、稀に拒絶反応を起こして命を落とす者がいるために付きっきりで見守りつづけるのは、不安との闘いに違いない。順平の場合は高熱を発したというから、なおさらだ。  躰の組織がヴァンパイアのそれに徐々に変化していく間中、微睡みにたゆたっていた。  いきおい記憶はおぼろで……ジグソーパズルのピースがはまったように、突然、はっきりと思い出した。  夢とうつつの境をさまよっていたあのとき、レオンは(こいねが)う色を瞳にたたえて、繰り返し囁きかけてきた。    ──おまえは、ようやく巡り合えた魂が共鳴する者。頼む、独りにしてくれるな……。    ブランコから飛び降りるのももどかしく、マンションに駆け戻る道すがら、黒塗りの車とすれ違った。その瞬間、産毛という産毛が逆立った。  古式ゆかしい霊柩車を改造したもののフロントガラスで、特大の十字架がぎらついたのだ。

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