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第9話
そうだ、敵の手に落ちた新米のヴァンパイアは情報源だ。
あれはきっと九十九田の愛車で、俺たちの居所を聞き出すや否や、奇襲をかけにいくところじゃないのか……?
不吉な予感がしたとおり、くだんの車がエントランスに横付けにされていた。胸が波立ち、ロビーに駆け込む。
大丈夫、レオンは機転が利く。危険を察知して籠城するかたわら、逃走手段を講じているはず。
だが、もしも順平がこっそり帰ってくるのを見越して鍵をかけていなかったら。
踏み込まれてアウトだ。
ふたりの城は八階で、エレベータはその階に停まっている。
ケージを呼ぶか? 時間が惜しい。二段飛ばし、三段飛ばしに非常階段を駆けあがる。
「レオンさん!」
玄関のドアは開け放たれていて、しかも部屋はもぬけの殻だ。
最悪のシナリオが浮かんで皮膚が粟立ったものの、争った形跡も、レオンが儚く散ったことを物語る洋服が落ちている、ということもない。ひとまずホッとしたが、ではレオンはどこにいるのだろう。
屋上だ、と直感して走る。
自分がレオンを護ると、うそぶいたくせに肝心なときにほっつき歩いていて、それでナイトに志願するとはちゃんちゃらおかしい。
万万が一、最愛の男性 を喪うことがあれば生きる意味をなくし、即座に後を追う。
案の定、レオンと九十九田は塔屋を挟んで対峙していた。九十九田は漆黒のマントを羽織って杭の束を背負い(ハンターの必需品といっても拳銃の所持は銃刀法違反だからね)、さしずめ時代遅れのコスプレイヤーだ。
レオンが、階段口を見やって舌打ちをした。
「おまえは足手まといだ。来るな、好きなところへ行っちまえ」
順平は決然と進み出た。天邪鬼な性分ゆえに悪態をつくのであって、本当は順平のことを大切に思ってくれている。
〝好きなところへ行け〟は、即ち〝逃げろ〟の同義語だ。
そう確信したが、レオンを置いて逃げるなんてとんでもない。今後も苦楽を共にしていくにあたって、頼りがいのあるところを見せなきゃ男がすたる。
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