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第10話
「のこのこ現れるとは好都合だ。二匹まとめて串刺しにしてやる」
九十九田がにんまりして、杭を頭上でぶんぶんと回しはじめた。狙い澄ましてあれを投げると、尖った先端が心臓を貫く寸法だ。
標的はレオンだ!
順平はレオンに駆け寄り、彼を姫抱っこするなり跳躍した。塔屋の屋根に飛び乗って九十九田を睨 め下ろし、吼えた。
「世界の総人口は、ざっと七十億。絶滅危惧種のヴァンパイアがひとりやふたり、まぎれ込んでいたからって生態系に大した影響はないでしょうが。むやみに狩り立てて残酷だ、暴力反対!」
杭が耳たぶをかすめて血がにじんだ。
「下ろせ。おれが九十九田を引きつけている隙におまえが背後に回り込んで挟み撃ちだ」
「役割分担が逆です。俺が囮 、レオンさんは逃げる」
二本目の杭がスーツの上着を切り裂いた。といってもボタンをはめていなかったのが幸いして、被害を受けたのは折しもはためいた裾のみで、ふたりとも無傷だ。
「化け物め、塵と消え失せろ!」
三本目の杭が槍投げの要領で放たれ、風になびいた金髪を引きちぎっていった。
「レオンさんをよくも……! こっちは丸腰なのに飛び道具を使って卑怯じゃないか」
「笑止! 正義は我にあり、卑怯もへったくれもないわ!」
マントが翻り、ハンターの目がサディスティックな歓びにぬめぬめと輝く。正義の味方どころか、悪役感百パーセントだ。
地上はネオンの洪水だ。かたや皓々と照る月が、決闘の場と化した屋上を青白く染める。
九十九田が腕をしならせ、四本目の杭が一直線に飛んでくる。
順平は、もがくレオンを姫抱っこで押さえつけておくとともに、杭が自分の背中に刺さってもかまわない覚悟で上体をひねり、横っ飛びに跳んだ。勢いあまって真っ逆さまに転げ落ちそうになるなかで、想い人をしっかりと抱えなおす。
杭は残り六本。こちらが高い場所にいるおかげで命中率が下がるという利点があるが、狭い塔屋の上を逃げ回ってばかりいては埒が明かない。
かといって九十九田が階段口に立ちはだかっている状況で強行突破を図ると、射程圏に入りしだい杭を胸に突き立てられる公算が大きい。
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