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第2話
***
雅の母親は所謂、愛人ってやつで相手を繋ぎ止める為に雅を産んだ。
小さい頃から虐待を受けていた雅は、愛情不足。
泣いても喚いても、殴られてうるさいと怒鳴られクローゼットの中に閉じ込められた。それが嫌で母親が怒らない様にと泣く事を止めた。
どんなに怒鳴っても殴っても笑う様になった雅を気持ち悪がった母親は、今度は育児放棄して家にあまり帰らなくなった。
雅はいつも一人だった。
お隣同士、自然と仲良くなっていた俺は雅と遊ぶ為によく雅の家に行った。
大人がいないからうるさく言われないし、自由な気がした。
ただいつも雅はクローゼットの中にいた。
俺が呼びかけると恐る恐るクローゼットを開けて隙間から顔を見せる。そして安心した様にか弱く笑う。
ある日、鼻血を出して顔を腫らした雅が部屋の隅でボーッとしていた。
黙って雅の前に座ってみるけれど、どこを見ているのかわからない視線は虚ろで鼻血の赤さだけが鮮明だった。
どれくらいそのままでいたのか、やっと俺に気が付いた雅は消えそうにニッコリと俺に笑いかけた。
――その笑顔に強烈に心臓が抉られたのを、今でも覚えている。
「痛くないの?」
ぽつりと訊ねると雅もぽつりと答える。
「痛いよ」
「なんで笑ってるの?」
「泣いたら怒られるから。笑っても怒られる。だから何も考えない様にしてるんだ」
「誰に怒られるの? 何で笑ったら怒られるの?」
その頃の俺達は幼すぎてそれが虐待というものだとわかっていなかった。ただ、良くない事だという事は何となく理解していた。
「お母さんに」
「今、俺しかいないよ?」
雅の無表情さが少し怖かった。
今思えばあれは雅が無意識に現実から逃避する手段だったんだろう。
「……泣いていいの?」
「……いいよ」
堰を切った様に雅の両目から涙が溢れて、わんわんと泣きわめいた。
俺はその小さく震える雅の肩を抱きしめていた。小さな身体いっぱい使ってぎゅっと。
「泣いていいんだよ」
その時初めて自分の中に渦巻く残酷な感情に気が付いた。
幼馴染みが今にも壊れかけているのに残酷な喜びを感じた。
「ただし、俺の前でだけだよ」
たったその一言。俺はその一言で雅に呪いをかけた。
――雅は今も忠実にそれを守っている。
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