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ハロウィン妄想と恋人たちの時間09
* * *
「ふあっくしょんっ!」
「あれ? 椎名風邪? 最近寒くなってきたもんな」
一人暮らしの部屋に相庭とそろって帰宅し、上着をハンガーにかけ、コーヒーメーカーのスイッチを入れたところで、くしゃみが連続して飛び出した。
これを羽織れとさりげなくひざ掛けを手渡してくる相庭に、「大丈夫」と断ってティッシュを引き寄せる。ちょっと鼻がむずむずしただけだ。
「じゃ、ブランケットの代わり」
相庭がぴったり横にくっついた。あたたかな体温が気持ちいい。
どこか遠慮がちに寄り添う相庭を引き寄せ、シンクの前に立ったまま後ろから覆いかぶさるように抱き込んだ。
「代わりどころじゃないな」
「え、嫌だったなら別に……」
「違う違う。相庭の代わりがブランケットに務まるわけないし、こうやってくっついてなんでもない時間を過ごせるのって、幸せだなあと思って」
「そ、そっか。なら、いいんだけど……」
サーバーに落ちたコーヒーの香りがふわりと香った。マグカップを棚から取り出した相庭の指が、袖口からちょんとのぞいているのがかわいくて、男心をくすぐられる。
中性的で線の細いイメージの彼は、その実なかなか男らしい。時折惚れ惚れするくらいなのだが、ふとした仕草や言葉遣いに、驚くほどかわいげがあって品もいい。いまどき女の子でもなかなかいないタイプだ。
しかし、この魅力に気づいてしまう人間は、自分以外にもたくさんいる。特に最近は露骨な男が一人。
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