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ハロウィン妄想と恋人たちの時間11

コーヒーの入ったマグを持つ相庭に、ドンと胸を押し返される。腕の中からすり抜け、ローテーブルの脇に腰を下ろした彼は、拒絶の気配を滲ませていた。  ああそうか、と唐突に理解した。恋愛については、わざと鈍くしているのだ。そうでないと勘違いして傷つくのは相庭の方だから。  気づいた途端、ささくれ立った気持ちがいとも簡単に萎んだ。嫌な気持ちにさせてしまった罪悪感と、今後はもっと自覚してもらわないと困る、という本音が胸の中でせめぎ合う。逡巡したのち、素直に話すことにした。そうしないとこの手の話題は余計にこじれるだけだろうから。 「相庭、ごめん。斉藤に相庭をとられたくなくて、感じ悪い言い方した」  なるべく刺激しないよう、少しだけ距離をとってしゃがみこむ。相庭の瞳が戸惑うように揺れたのが見えた。 「俺は、相庭が好きだよ。でも自分のことはノンケ? だと思ってたよ。男を好きになったことはなかったし、恋愛対象に入るなんて考えたこともなかった。それでも相庭を好きになったよ。だから他の人がそうならない保障はないって身をもって知ってる。それに、相庭といるとすごく居心地がいいから……それは斉藤も同じだと思う」  きょとんと形のいい瞳が見開かれる。まったく自覚がないらしく、こちらとしては苦笑するしかない。

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