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後日談~弟くんへのご挨拶(椎名視点)5
相庭へのお願いはわりと早い段階で現実になった。
「初めまして、お兄さんとお付き合いさせて頂いてる椎名史陽です」
「……ども。弟の円です」
忍の部屋に上がり込んで初対面を果たした弟は、容姿も雰囲気もシャープで兄とは似ても似つかない印象だった。
愛想はほとんどない。
なぜわざわざ紹介されたのかわからない、と顔に書いてある。
「円は自慢の弟なんだ」
「うるさい余計なこと言うな」
ふにゃっと眉尻を下げて笑った相庭を、間髪入れず弟が咎める。
口を挟む余地もない。
「ごめん。……そうだ、俺飲み物とってくる」
「あ、おい忍!」
そそくさと部屋を飛び出した相庭のせいで、取り残されてしまった二人の間に、妙な沈黙が生まれた。
さきほど弟を紹介した時の相庭は、見たことのない表情をしていて、それもなんとなく引っかかったままだ。
「わざわざ呼びつけてごめんね。仲が良さそうだったから気になって」
「別にいっす。つーかよくアイツの告白受け入れましたね」
「自分でもビックリしたけど、逆になんで俺なんか好きになってくれたんだろう」
「はあ。でもあの甘ったれ、たまに殴りたくなりません?」
「甘ったれ……?」
会話の中で突然飛び出した馴染みのない単語に首をひねる。
甘ったれ――とは、相庭のことだろうか。
つい先日、もっと甘えて欲しい、そのために頑張ろう、と自分は決意したはずなのだが。
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