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後日談~弟くんへのご挨拶(椎名視点)6

「げ、もしかしてアイツ猫被ってんじゃ」 「猫?」 「アイツのことは今後一切そっちにお任せしたいんで、早いとこ化けの皮剥がしてください。マジで頼んます」  猫? 化けの皮? と頭の中にたくさんハテナを散らしたところで、兄の方が戻ってきた。 「円ちゃんあけて~」 「めんどくせえな」  盆を持っているせいでドアが開けられず、弟に助けを求める相庭の声が、いつものそれと全く違って聞こえる。 「椎名、お待たせ」  にっこり笑ってローテーブルにグラスを置く相庭の背後から、円が声をかけた。 「おい俺もういいよな」 「えっ、もうちょっとぐらいいいじゃん」 「立ったし、タイミングだろ。じゃあ椎名さん、マジで忍お願いします」 「ああ、うん、ありがとう」  円は踵を返すと、振り返ることなく自室に帰っていった。  取り残された相庭が、円ちゃんはいつもつれないだの、でも頭が良くてかっこいいだの、まるで恋する乙女のように力説している。 そういえば紹介してくれた時の第一声も「自慢の弟なんだ」という正に自慢げな雰囲気を滲ませた一言だった。  無意識に大きなため息をついてしまい、相庭が心配そうにこちらを覗き込む。  弟にあれだけ肩入れして、甘えたい時に甘えていたんじゃ、いつまで経っても自分に出番が巡ってこない。 それが分かっているから、無口そうな弟もあれだけ宜しく言ってきたのだろう。 ――協力的で非常に良い弟だ。

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