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後日談~弟くんへのご挨拶(椎名視点)11
同じ街とはいえここから俺の自宅まで結構離れているのに、それでも誘っているのだと思うと、体中が沸騰したみたいに熱くなった。
「そんなにしたくなっちゃった……?」
「……したい。これ……欲しい」
これと言いながらそこをツンツンされるともうたまらない。
これ以上ないほど煽られ、相庭の腕を引っ張り起こして急いで帰り支度をする。
「相庭、今日は泊まりだから、あと5分で荷物詰めて行くよ」
「えっ、わかった。ちょっと待ってて」
いーち、にーい、と数えて急かすと、相庭の楽しそうな笑みがこぼれた。
荷物といっても大した量ではない。
小さくまとめたバッグを背負うと、相庭が隣の部屋のドアをノックした。
「なに」
欠伸をしながら出てきた弟に二人で声をかける。
「これから出てくる。今日はもう帰らないから」
「うちでお兄さん預かります」
「あーハイハイ。どうぞ好きなだけ」
たいして興味を示すことなく、ゆるく承諾した弟に会釈し、相庭家を後にする。
声をかけた時、こっそり振り返って円に親指を突き出すと、なにやら両手を摺り合わせて拝まれてしまった。
表情が乏しくて、何を考えているのかイマイチわかりづらい部分はあるが、フラットな態度のおかげでちっとも嫌な印象を与えないのが彼のすごいところだ。
相庭が溺愛するのも仕方がない気はするが、今後その役割はこちらに譲ってもらう、と心の中で宣言する。
しかし、「どうぞどうぞむしろ熨斗をつけてくれてやります」なんて言っている円の姿が頭に浮かび、苦笑した。
――もしかしたら、彼には一生叶わないかもしれない。
おわり
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