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新年SS 09

「うん。しない。全部しない」 「……ん」 「去年はごめん」 「はは、……あれは仕方ないってわかってるんだけど」 「でも傷つけたんだよな?」 「…………今日は同じベッドに入っても、起きててほしい」 言いながら、恥ずかしくていたたまれなくなる。 誘うことに対する罪悪感や緊張感が、いまだに拭いきれない。 震える指先で椎名の服の裾を掴み、一思いに感情をさらけ出した。 「お、俺の前でちゃんと男の顔して。……眠れなくなるくらいすごいことしてほしい」 「相庭……」 ため息のように大きく息を吐き出しながら、椎名が抱きしめた体をゆさゆさと左右に揺らす。肩口に顔を埋めてしばらくそうしてから「俺さ」と続けた。 「俺こんなに好きになってもらったことないから、しんどい。嬉しくてしんどい。ずっとそうしててよ。弱みなんて可愛いだけだよ。もう……今日いつ寝かせてあげられるかわかんない」 「……椎名、あの、ありがとう」 「……」 受け入れて貰えたことに安堵してほっと息をつくと、椎名が無言で体を離し、手を引いて大股で歩き始めた。 グイグイ引っ張られ、慌てて歩調を合わせる。 背中越しに、椎名が聞こえないほど小さな声で呟いた。 「ありとがとうってなんなの……。絶対俺のほうがのめり込んでる……絶対、ぜったい……」 「椎名? なに、聞こえない」 「……っ、死ぬほど好きって言っただけですー!」 一瞬何を言われたのか理解できず、数秒間思考が停止した。 投げつけるように言われた言葉は、目の前の男の耳が真っ赤に染まっているお陰で、照れ隠しなのだとわかる。 人気のない元旦の深夜。 いつもなら絶対に言えないことを、公道の上で口にした。 「お……俺は死ぬまで好きだ!」 新しい一年も、次の一年も、もっとずっと先まで一緒に居続けてやると、ほんの少し強気で。 【片恋・新年SS おわり】

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