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第2話

「今日も王子様と一緒に登校なんて、羨ましいね~」 教室の自分の席に着くと同時に友人であるβ-釜谷雄馬が近寄ってくる。 羨ましいといいながらも、本当に羨ましいと思っている口振りじゃない。 「…そんなに羨ましいなら、代わる?」 僕の言葉に雄馬はシッと言って、慌てたように人差し指を唇の前に立てた。 「そんな大きな声で言うと皆に聞こえるぞ…代わってほしいと思っているヤツは沢山いるんだから」 僕は大きな溜め息を吐く。 「その薔薇…王子から?」 「………うん」 「毎日毎日、この寒い中、外で蒼眞が出てくるのを待っているんだろ」 「…うん」 「で、また言われた?“運命の番”って」 返事の代わりに、大きな溜め息をひとつ吐く。 「…も~さ、付き合っちゃえば?」 雄馬の言葉に、僕は慌てる。 「な、何、言って…そんな事、できるわけないだろ?」 皆に聞こえるとまずいので、小声で雄馬に猛抗議。 「どうして?俺なら王子にそんな事、言われたらコロリといっちゃうね」 雄馬は腕組みをしてウンウンとひとりで頷いていたが、僕の方に身を乗り出して言い募る。 「考えてみろよ、あの王子だぜ。イケメンだし、他のαと違って俺達βにも優しいし、他のαと違ってαを鼻にかけないし、エリート面もしない」 (…他のαと違ってを2回、言ったな) 心の中で突っ込む。 「…あの王子が悪戯や気紛れで蒼眞に言い寄るとは考えられないけど…1回、付き合ってみたら王子も納得するんじゃないの…“運命の番”じゃないって…どうせ上手くいくわけないんだからさ、αとβの恋愛なんて…」 (分かってるさ) αとβの恋愛が上手くいかない事くらい。 αに産まれたからには、いずれ…1回はΩとの間に子供を産まなければならない。 それは決められている事。 そこに、恋愛感情は関係ない。 αは相手のΩの発情期に、発情期間が終わるまで同じ部屋で寝泊まりする。 …Ωは発情期がいちばん子供を作りやすい身体になるから。 その間、αの本当のパートナーはひたすら祈るだけ。 自分のパートナーであるαが理性をなくしてΩの項を噛んで『番』にならないように。 『番』になってもαから解除はできるが、それは昔の話。 今はそんな事をすると、αといえども厳しい罰が待っている。 そして、間違って『番』にしてしまったら。 責任をとって、一生『番』でいなければならない。 責任をとって、『番』のΩが発情期の期間はΩの元へ通い続けなければならない。 αのパートナーは、それを許すのか、我慢するのか。 …僕は……我慢できそうにない。 (それ以前に、付き合う事すらできそうにない) 疾風夏樹の家族が、α一族にβの血を入れる事を許さないだろう。 Ωとの間に子を作る義務は義務として、結婚はαと。 そうして周りをαで固めて、大きくなっていった一族だ。 疾風夏樹だって、いずれはαと結婚しなければならない。 βである僕を…なんて、絶対、許さないだろう。 今だって、疾風夏樹の行動を苦々しく思っているはずだ。 僕の家だって…祖父がαを毛嫌いしているし。 僕だって祖父の話を聞いていたから…αが嫌いだった。 ……ひとりを除いて。 疾風夏樹が現れて、2人になったけど…。 そうさ。 僕は疾風夏樹を嫌いじゃない。 でも、祖父は疾風夏樹が嫌いだ。 疾風一族が嫌いだ。 祖父のαを嫌う気持ちも分かる。 Ωの恋人と引き裂かれたんだから。 でも、それと疾風夏樹は関係ない。 疾風夏樹は今までのαとは違う。 でも、僕がどんなに言ったって、αってだけで嫌う。 僕は祖父が好きだし、内緒だけど、疾風夏樹も好きだ。 好きな人が好きな人の悪口を言ってるのを聞きたくない。 だから、僕は祖父の恋の詳細を調べようと思った。 そして、疾風夏樹の事を知ってもらうんだっ。 と思ったのに。 いくら昔の記録を見ても、祖父と恋人だったというΩの記録がない。 αはともかく、Ωは数が少ないし、国が管理しているのでひとり残らず記録に残していないとおかしいし、国立図書館で閲覧可能なはずなのに。 どこにも記録がない。 規制がかけられているのかなとも思ったが、祖父と同じような年代のΩの記録は今ある分で全てだと受付のお姉さんに言われた。 不明のΩもいない。 祖父はもちろんの事、事情を知っているはずの祖母も口を堅く閉ざして教えてくれない。 それだけじゃない。 祖父の同級生を捜し出して聞いても、誰も首を左右に振って教えてくれない。 まさか………どこからか圧力がかかっている……とか………? でも………………昔の出来事なのに………。 それに………事故ってわけでもなく、βとΩの悲恋やΩがαに無理矢理『番』にさせられる事なんてあの頃……祖父の時代には珍しくもなんともない、日常茶飯事だったのに。 圧力なんて…………………………。 ………………まさか………ね………。 (………記録漏れ………かな………)

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