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第3話

『付き合って下さい。きっと君は僕の“運命の番”だ』 いきなり赤い薔薇を1輪捧げ持ち、片膝をついて僕を見上げ…そう告げた彼は本当に王子様みたいで。 僕が綺麗なα…いや、せめて可愛いΩなら絵になっていただろう。 でも、悲しいかな…残念な事に僕は平凡なβ。 いくら恋愛は自由だと叫んだところで、貴重なαの遺伝子を生産性のない恋愛で駄目にするわけにはいかない。 本人がよくても、周りが許さない。 僕がΩなら…いや、女性のβなら祖父がどれだけαを嫌いでも、周りにどれだけ反対されようと、縁を切られても、α特有の気紛れと言われようが、気の迷いと言われようが…たとえ結果……捨てられる事になったとしても、迷わず彼の胸に飛び込んでいくのに。 彼は僕の事を一目惚れだと言っていたけど、僕の方が先に彼を見て一目惚れした事を彼は知らない。 初めて彼が薔薇の花を持って僕の前に現れた時、どんなに僕の胸がドキドキして嬉しかったかを彼は知らない。 夜、寝る前に明日の朝も彼は僕を待っていてくれるだろうかと。 毎朝、家を出る時、彼はいつものように現れてくれるだろうかと。 ある日、突然、僕が平凡なβだと…αである自分には釣り合わないと。 それらに気付いて彼が僕の前から去って行くんじゃないかと。 僕が彼を好きだと知った途端、手の平を返したように僕に興味をなくすんじゃないかと。 そんな人じゃないと知っててもそう思ってしまう僕を、君は知らないだろう。 毎朝、君の顔を見る度に弛みそうになる口許を引き締めている事を…嬉しい顔が表情に出ないように気をつけている事を、君は知らない。 (この気持ちは彼にだけは知られてはならない) 特に彼の家族に知られる事だけは避けたい。 今はまだα特有の気紛れと、僕がそんな彼を相手にしていないと思っているから、皆は笑って放置してくれているけど。 僕まで本気だと知られたら………。 きっと引き離される。 そして2度と会えない。 祖父と,祖父の恋人だったΩのように。 だから。 この想いは誰にも言えないし、誰にも知られてはいけない。 彼にも……………。 一生、僕の胸の中に秘めておく。 ずっと-。

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