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第4話
-部屋の中、むせ返るような甘い香り。
(………どうして)
僕はドリンクを乗せたお盆を持ったまま、部屋の戸口で立ち尽くす。
(どうして………)
むせ返るような香りの源は今、ベッドの上で蹲って身体を震わせている。
助けなければ………。
そう思うのに。
誘うような甘い香りが思考を奪う。
身体が火照り、喉が渇く。
誘われるような甘い香りに思考を奪われそうになり、しっかりしろと頭を振る。
手で鼻を覆い、ソロソロとベッドに近付きそこに蹲っている人物に近付く。
「………大丈夫……?」
聞こえてくるのは、苦しそうな息づかいのみ。
「……具合、悪いの…?救急車、呼ぼうか……?」
恐る恐る聞いた僕に、ベッドの上で喘いでいた彼が顔を上げた。
その顔を見て、僕はドキリとする。
潤んだ瞳、上気した頬、紅い唇。
むせ返るような甘い香りと相まって、まるで誘われているような錯覚に陥る。
おおよそαらしくない。
………その表情、香り……………。
いつもの綺麗で、格好い彼の姿はどこにもない。
綺麗は綺麗なんだけど、可愛く妖しい…初めて目にする彼の姿。
これは………まるで…………。
噂に聞くΩのフェロモン………。
思わず引き込まれそうになるのを、頭を左右に振って振り切る。
(…そうだ……Ωなら…抑制剤を持っているはず…!!)
「……薬………抑制剤はどこ……?」
僕の問いに彼は熱い息を吐きながら、首を左右に振るばかり。
(……あ、そうだ…鞄の中に入っているかも………)
彼の鞄の中を確かめてみようと踵を返した時。
手首を掴まれた。
ベッドの上で蹲っている、αであるはずの彼-疾風夏樹に。
「………ねが……ぉねが……」
いつもと違う、艶のある声。
潤んだ瞳に見詰められ。
夏樹の全てに引き寄せられて………。
(………駄目だ!!しっかりしろ!!)
ありったけの理性をかき集めて、何とかギリギリ正気を保つ。
……………………………が。
「………ぉねが……蒼眞……」
涙を流して僕を誘う夏樹。
いつもとは違う色っぽさにクラクラする。
(駄目だ……夏樹は今、正気じゃない………)
分かっている。
分かっているんだけど。
部屋の中、充満するフェロモンの甘い香りと、なによりも夏樹の存在が僕の理性を奪っていく。
夏樹の身体から放たれるフェロモンの香りが強くて………。
(息苦しい………)
だからだろうか……鼓動が速い…身体が熱い…汗が止まらない。
夏樹の紅い唇から瞳が離せない。
頭の中に霞がかかったように何も考えられなくなり、夏樹の唇に引き寄せられるように唇を近付け………………………。
…………………………………………………。
………………………………。
…………………。
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