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第6話
(………やっぱり、ない…)
国立図書館、歴代のΩの名簿と系譜が置いてある一室に入る為、受付で名前を書き込み祖父と恋人だったΩの事を調べていたが……。
これが、思った以上に難しい
祖父の恋人だったΩを調べるのは、最初は簡単だろうと軽く考えていた。
祖父の恋人だったのは確実だから、調べていけばその内に祖父の名前が出てくるだろうと。
だが、いくら見ても祖父の名前は出てこない。
仕方がないから、祖父と産まれた時期が同じか、それと前後した年代の名簿を初めから調べる事にしたが、それでもまだ僕は楽観的だった。
何故なら、Ωは圧倒的に数が少ないから。
だが、少ないとはいえその時代のΩを1人、1人調べて候補者を絞っていくのは結構、骨が折れた。
この名簿や系譜は閲覧する事はできるが、持ち出し禁止な為、借りる事はできない。
だからここで調べるしかないけど……家族に黙って(特に祖父には絶対、知られないように)調べている手前、なかなか時間がかかる。
でも、調べていく内に、1人、気になるΩを見つけた。
祖父と同級生のΩ(この時代はまだΩは国に保護される事なく、α、βと同じ学校に通っていたらしい)の記録が途中から消えている。
そのΩは高校を卒業した後、αと“番”になったらしいが、その後の記録がどこにも書かれていない。
普通なら書いてある筈の“番”になったαの名前すら、ない。
それが証拠に、他のΩは“番”、結婚、恋人の名前は全て書かれている。
愛人になった人の名前まで書かれてあるのに………。
祖父の名前がないのがおかしいくらいだ。
Ωと付き合っていたという祖父の話が嘘じゃなければ………。
「……じゃ、じぃちゃんが嘘吐いてたって事?」
祖父の恋人だったΩを調べている事は家族には秘密だが、弟である真哉には相談相手になってもらっている。
そうでなけりゃ、βの僕が一般に立ち入り禁止のΩの名簿や系譜が収められている場所に入れるわけがない。
僕が簡単に調べる事ができるだろうと考えたのは、それもあっての事だった。
「…いや…そうじゃないとは思うけど……」
「……嘘じゃなくても、ほら、あるじゃん、勘違いとか……相手は付き合ってるつもりがなく、自分だけが付き合ってると思って盛り上がっちゃった…みたいな?」
真哉はお皿の中のクッキーを頬張りながら聞いてくる。
僕は1回だけ酔ってΩの話をした祖父の様子を思い出して、首を振る。
「…いや~、勘違いって感じでもなかったけどな~」
「………じゃ、何?」
「…まぁ、1人、気になるΩがいるにはいるんだけど……」
…これは言ってもいいのかな。
「………………何?」
……いっか。資料にも書いてあるし。
「………αと“番”になって以降が分からない……っていう…その“番”になった相手の名前も分からないんだよね」
「……………え、何?……怪談……?」
「なわけないじゃん、夏でもないのに」
「…………………………じゃ、え!?めっちゃ怪しいじゃん!!それ!!」
「だよな~」
「……あれ、でも、そのΩ、“番”って解除されたんじゃなかったっけ?」
「…うん、僕もそう聞いていたけど、記録が一切ないんだ……他のΩの記録はあるのに」
「……生きているのか、死んでいるのかも分からないってわけ?」
真哉が形のいい眉を顰めて呟く。
……生きているのか、死んでいるのか………。
(祖父は知っているのだろうか………)
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