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第8話

「駆け落ちをしよう!!」 「……………は?」 -今朝、いつもの通り家を出て。 これもいつも通り、夏樹に待ち伏せされて。 (…あの日の事は………夢?) そう思える程、夏樹の笑顔はいつもと変わらず、王子様だった。 多分、夏樹と双子のΩがいると聞かされたならきっと、信じただろう。 それ程に、あの日の夏樹とは別人みたいで。 -あの日の記憶は、曖昧だ。 僕がΩの事を調べていると誰かから聞いた夏樹は、図書館にない資料も疾風家にはあるから見せてあげると言って半ば強引に家族全員が留守の僕の家に押しかけてきて。 夏樹を僕の部屋に案内して、飲み物を持って部屋に戻ったら…僕のベッドの上で夏樹が苦しんでいて。 部屋の中は甘い、誘うような香りが充満していて。 その香りに引き寄せられるように夏樹に近付いて。 そこから記憶が曖昧で。 憶えているのは。 むせ返るような、甘い香り。 誘うような紅い唇。 濡れた瞳。 白い肌。 まるで夢の中にいるみたいだった。 そして気が付いた時にはベッドの上で独り、全裸で寝ていた。 『駆け落ちをしよう!!』 そう叫んで僕の両手を握り締めた夏樹の両手は緊張をしているのか冷たくて、小刻みに震えている。 僕を見詰める夏樹の瞳には、縋りつくような必死さが滲んでいて………。 その瞳を見た時。 無意識の内に、夏樹の両手を力強く握り返していた。 「………うん、駆け落ちしよう」 僕の言葉に夏樹は一瞬、驚いたように瞳を見開いたが、すぐに嬉しそうな笑顔に変わる。 -僕の見たかった笑顔。 この笑顔の為なら、僕はなんでもする。 そう、思った。

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