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「えっ……で、でも今、予定ないって……」
「うん、予定はない……けど、これから作るんだ」
「あ、そ、そうなんですか……」
落胆を隠さず、大河内さんががっくりと肩を落とした。
「ホットコーヒーふたつ、お待たせいたしました」
「ありがとう」
俺からコーヒーを受け取ると、理人さんが淹れたての方のカップを差し出しながら、大河内さんを覗き込んだ。
「せっかく声かけてくれたのにごめんな?」
「い、いえ、大丈夫です!コーヒー、ご馳走さまです!」
大河内さんは奪い取るようにコーヒーを受け取ると、何度も頭を下げて去っていった。
その横顔は、真っ赤だった。
たぶん、至近距離で見る理人さんの笑顔に耐えられなかったんだろうと思う。
まったく、罪な男だ。
この人の無意識の笑顔と優しい言葉に、いったい何人の人間が心を奪われてきたんだろう。
もちろん、俺もその中のひとりなんだけれども。
なんだかとてつもなく悔しくなってこっそり恨みを込めた視線を送っていると、大河内さんの背中を見送っていた理人さんがふとこちらを見た。
「佐藤くん」
「……はい?」
「クリスマス、予定ある?」
「ないです」
「予定、作っていいか?」
「えっ……」
「佐藤くんと一緒にクリスマスケーキ作りたい」
「あ、はい。いい、ですけど……」
え?
あれ?
なんか……あれ?
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