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狩り3

竜蛇は部下達に犬塚の匂いを覚えさせた犬を使って追わせていた。まさに狩りだ。 あのレンタルルームで、もっと簡単に捕らえる事もできたが、それではつまらない。 不機嫌顔で車内に待機していた須藤のスマホが鳴った。部下からの報告を受けて通話を切った須藤は更に不機嫌な顔をして竜蛇を見た。 「犬塚を追い込んだそうです」 「そう」 竜蛇が目で指示したので、須藤は運転手にその場所に向かうように言った。 部下達は数組に別れて、リードに繋いだ犬に匂いを追わせて走っていた。一人の男が苛立ったように呟いた。 「犬を離しゃすぐに捕まるのに………」 「駄目だ。絶対に傷付けるなと組長の命令だ。犬が奴に噛み付きでもしたら、俺らが殺される」 その時、犬が大きく吠えた。 「よし。追い込んだようだぞ。待機だ」 男はリードを強く引き寄せ、興奮した犬を座らせた。 犬塚は夜間工事中のビルの前に逃げてきていた。身を潜めても犬が匂いを嗅ぎつけるので、犬塚は足を止めずに逃げ続けていた。 ビルに向かって走ってきた犬塚を警備員が不審げに呼び止めた。 「おい君、何を………ッ!?」 犬塚は勢いをつけて警備員を殴り奇絶させた。警備員の脇に腕を入れて抱え、ビルの入り口の階段を引きずるようにして上り、エントランスに転がしておいた。 急いで警備服を脱がせて、自分の上着を脱いで警備員に被せた。 気休めに近いが、犬の注意を少しは引けるだろう。 それに上には作業員が数名いるようだし、竜蛇の部下も一般人がいる場所で派手な立ち回りはしないはずだ。 犬塚は警備服を羽織り、ビルの外へと駆け出した。 パシュッ! 「ッ!?」 ビルの外に出た瞬間、空気を切るような音がして犬塚の太腿に鋭い痛みが走った。 「なっ………!?」 見れば太腿に飾り羽の付いた弾が命中している。犬塚はすぐに弾を掴み、刺さっていた針を引き抜いた。動物に使うような麻酔弾みたいだ。 ま、麻酔銃!? 驚愕した表情で犬塚は太腿から抜いた弾を掌から落とした。 カランカランと音を立てて階段を落ちていく弾を目で追っていると、その先に竜蛇が立っていた。 黒のロングコート姿が、この状況に場違いなくらいにモデルのように美しい立ち姿だった。 ライフルを下ろして、ゆっくりと階段を上ってくる竜蛇を犬塚は唖然として見ていた。 「ゲームオーバーだ。犬塚」 「ふざけるなッ!」 犬塚は踵を返してビルのエントランスに戻ったが、足がもつれて無様に転んだ。 「………くそっ」 コツン……と、エントランスに革靴の音が響く。這うようにして逃げようとする犬塚を竜蛇は面白そうに見ていた。 「お前の為に檻を用意した。きっと気にいるよ」 「変態野郎ッ!」 嫌悪感をあらわにして吐き捨てるように言った犬塚の言葉に竜蛇の笑みが更に深まった。 「ちょっと、あんたら何してんだ?……えっ? おい、それって……!!」 その時、ちょうど下りてきた若い作業員が倒れている犬塚と銃を持った竜蛇を見てギョッとした顔で叫んだ。 「邪魔をするな」 竜蛇は少しだけ眉根を寄せて作業員を見た。そして、なんのためらいもなく作業員をライフル型の麻酔銃で撃った。 「ぎゃあッ!! う、撃たれたぁッ!!」 撃たれた作業員の若者が腰を抜かしたようにひっくり返ったのを見て、竜蛇は呆れたように告げた。 「死にはしない」 重い瞼を必死に上げて、竜蛇の冷たい美貌を見上げていたが、襲い来る睡魔に勝てず犬塚はがくりと意識を失った。 「須藤」 竜蛇は背後に控えていた須藤を呼んだ。倒れている作業員と警備員を見て、須藤は盛大にため息を吐いた。 「あっちは俺じゃないぞ」 竜蛇は警備員を指差して、おどけたように笑って言ったが、須藤はジト目で竜蛇を見ていた。 「多めの治療費と迷惑料を払ってやれ」 「………口止め料もですね」 竜蛇は須藤にライフルを渡し、意識を失った犬塚を抱き上げた。その首に嵌められた首輪に気付き、氷のように冷たい瞳でそれを見つめた。 「他の男に贈られた首輪か?………まぁいい。すぐに外してやる」 竜蛇は恐ろしく甘い声音で囁き、眠る犬塚の唇に柔らかなキスを落とした。

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