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犬の檻2

犬塚は檻を壊せないかと暴れてみたがビクともしない。体力を失うだけで無駄だった。 しばらく暴れた後、犬塚は檻を壊すことを諦めて、膝を抱えて格子に背をもたれさせて座った。 竜蛇は戻ってくる。最悪だが……きっと犬塚を犯そうとするだろう。反撃するのはその時だ。 あの変態野郎……殺してやる。 これ以上体力を失わないように、犬塚はじっと蹲っていた。 明るい照明の下、今が何時なのか全く分からない。竜蛇は夜だと言ったが、今が真夜中なのか夜明け前なのかも分からなかった。 どれくらい時間が経ったのか……犬塚は尿意を感じてふるりと震えた。 室内の空調は裸でも寒くも暑くもないように管理されている。だが何時間も放置されていて生理現象をもよおしたのだ。 「……くそっ! おい! ここから出せ!」 犬塚は格子を掴んで檻を揺らした。 檻の中にも部屋にもトイレは無い。動物のように小便を垂れ流すなど御免だった。きっと監視カメラで見ているはずだ。 犬塚はしばらく叫び続けたが何のリアクションも無かった。 尿意は我慢できないところまできている。犬塚は低く毒づきながら格子の隙間からペニスを出した。 「……ちくしょう」 悔しげに顔を歪めて檻の外へ放尿した。限界まで耐えていたので、犬塚は解放感にほっとため息を吐いた。 全て出しきった時、天井と壁がスライドして勢いよく湯が噴出した。 「なっ、何だ!?」 オートシャワーだ。洗車でもされているように上からと左右から、強めのシャワーで犬塚は裸体を流された。犬塚の尿も湯とともに排水溝へと流れていった。 しばらくしてシャワーは止まり、今度は強い温風が出始めた。温風が犬塚の濡れた裸体を乾かす。 「ふざけやがって!」 まるでペットショップの犬だ。 温風が止まり、静かになった部屋で犬塚は苛立ち叫んだ。 水圧の強いシャワーと温風で動物のように体を洗われて、犬塚は疲れてぐったりと座り込んだ。 それからまた数時間が経った。 誰も部屋に来ることもなく、静かな檻の中で犬塚は一人でじっと座ったままでいた。精神的にも消耗しつつある。 それに食事も水も与えられず、体力も落ちてきていた。 もう丸一日は檻の中に閉じ込められていると思う。竜蛇は自分をどうするつもりなのだろう。 犬塚のうなじを噛むという事は『番』にするという事だ。だがこの扱いはペットか奴隷に対するようだ。 竜蛇の目的が分からない。犬塚の怒りは不安にすり替わっていった。 いつまでも一人で檻の中に放置され、犬塚はいつしか眠ってしまっていた。 明るい部屋で水も食べ物も無く、体力的にも精神的にも疲弊しており、犬塚はぐったりと胎児のように丸くなっていた。 ウトウトと浅い眠りに落ちたり、目覚めたりを繰り返していた。 そうしていると、カチリ、とドアの開く音がした。犬塚はハッと目を開き飛び起きた。 「待たせてごめんね。犬塚」 竜蛇がいつもの微笑を浮かべて部屋に入ってきた。犬塚を檻に閉じ込めてから一日半が経っていた。犬塚にはもっと長く感じられていたが……。 「………」 「良い子にしていたようだね。さあ、出ておいで」 竜蛇は自然な動作で檻の鍵を開けて犬塚を呼んだ。まるで飼い犬を呼ぶみたいに。 「ほら、おいで。犬塚」 その竜蛇の呼び方に犬塚の目に鮮やかに怒りが蘇る。 犬塚は四つ足でゆっくりと檻から出てきた。本気で竜蛇を殺してやろうと思った。 その剥き出しの殺意に竜蛇は面白そうに目を細めた。 「………」 狭い檻の中に閉じ込められていたので手足はギシギシと軋んだ。 だが、このまま竜蛇に好き勝手されるのは許せない。 犬塚は竜蛇を見据えたまま檻に捕まって立ち上がり、コキリと肩を鳴らした。 竜蛇に隙は無い。この男は絶対に隙を見せない。竜蛇は強い。αの中でもワンランク上のαだ。丸腰で全裸の今の犬塚に勝機は薄いが…… 「……お前のモノになんかならない」 「いいぞ。足掻け。その方が燃える」 竜蛇の余裕の表情を見て、犬塚はカッとなって飛びかかった。 何の技巧も無く殴り掛かる犬塚を、竜蛇は軽くかわして、犬塚の腹を膝で蹴り上げた。 「ぐぅッ……!!」 体を丸めた犬塚の黒髪を掴み、壁に叩き付けた。ずるずると壁伝いに崩れた犬塚の横に竜蛇は膝をつき、苦悶の表情を浮かべる犬塚の顔に手を這わせた。 「……ッ」 犬塚はカッと目を開き、竜蛇の手に噛み付いた。野生の獣のような犬塚に、竜蛇は笑みを深め、体を使って押さえつける。もう一方の手で犬塚の首を締めあげた。 気道を塞がれて犬塚の顎の力が緩み、竜蛇は噛まれていた手を取り戻した。 「ふ……ぐ、このっ……!」 竜蛇は犬塚の頬をパンッと張った。 二度、三度と犬塚の頬を叩き、もがく犬塚を押さえつけた。 犬塚の抵抗が弱まった頃、竜蛇はズボンのポケットから手錠を出して犬塚を後ろ手に拘束した。 「立て」 犬塚の髪を掴み、強引に立たせた。 犬塚は悔し気な表情で立ち上がり、竜蛇を睨みつける。怯えよりも怒りが勝っているのだ。竜蛇にはそれがたまらない。 「……いっ!」 ギリギリときつく犬塚の黒髪を掴み、引きずるようにして部屋を出た。

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