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第10話 回り道は真っ赤に染まった

※後日談の中に入れちゃってますが、本編よりも過去の話、高校生くらいの時のワンシーンです *** 「待った! さっきからどこ向かってるんだよ」 風を切る広い背中に話しかけると、志童は振り向かずに答えた。 「いいじゃん、ちょっとくらい回り道したって!」 いま俺は、幼なじみの志童がこぐ、自転車の後ろにまたがっている。 「あのなー。無駄に回り道するくらいなら、歩いて帰った方が早かったよ……」 今日俺は授業のバスケでミラクルなスリーポイントシュートを決めたものの、着地に失敗して足首をひねってしまった。 それで帰り、痛む足をかばって歩いていたら、志童がどっからか自転車を借りてきた。 家まで送ってあげる、そう言われて後ろの荷台に乗ったのが失敗だった。 「こっちの坂道、自転車で行くと気持ちいいんだよ!」 志童は住宅街の坂道を、たいしてブレーキもかけずに滑り下りる。 「うおわっ!」 「ははっ、気持ちいい!」 「あぶなっ、こらっ、コケたら死ぬ!」 「大丈夫、大丈夫! 俺、自転車乗るの得意だから」 自転車っていうか普通のママチャリだ。得意も不得意もないだろう。 俺たちは坂道をジェットコースターみたいな速さで滑り下り、やがて川沿いの道に出た。 「はあ、死ぬかと思った」 息をついてぼやくと、志童がペダルを踏みながら俺を振り返る。 「もっとぎゅってしてよかったのに」 「はあ? そういう下心かよっ」 無意識のうちにやつの腰の辺りをつかんでいた手を、パッと放した。 「なんで放すのー」 「それより前向いてこげよ!」 「天心、素直にぎゅってしなよ」 「イヤだ! っていうか、家と違う方向に来てるじゃねーか……」 呆れながら周りを見た。 何もない川沿いの土手だ。遊歩道みたいになっている道は、なだらかなカーブを描いている。 「お前な、怪我人をびびらせるためだけに、わざわざこんなとこまで来たのかよ……」 寂しげな景色を前に、ため息をついた時……。 「見て、正面!」 前にいる志童が声をあげた。 「……ん?」 俺は伸び上がって、やつの肩越しにそっちを見る。 大きな夕日が、川面に沈んでいくところだった。 「すげーな、こんな場所に絶景スポットがあったとは……」 「でしょー!」 道をゆっくりと慣らす自転車に揺られながら、俺はしばらくあたたかな赤を目に焼き付けた。 それからふと気づく。 「……あれ、お前知ってて来たのか? ここの夕日のこと」 「んー……」 志童は曖昧に返事をして、それからぼそっと打ち明けた。 「天心が、怪我して落ち込んでたから」 「なんだよそれ……」 こいつはそんなことのために、俺をこんなところまで連れてきたらしい。 無邪気な広い背中を、思いきり抱きしめたい衝動に駆られた――。

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