14 / 17
第14話 キスの日
今日はキスの日だって、たまたまつけていた事務所のテレビが言っていた。
「天心、初めてキスした時のこと覚えてる?」
隣で切手を数えていた志童が聞いてきた。俺はヤツの脇腹に軽くひじを入れる。
「覚えてるも何もつい最近じゃねーか」
あの時この馬鹿は、結構強引に俺の唇を奪ったんだ。あれはほぼ強盗だ。
「“こんなの俺は認めない”とか言ってたよねー、天心は」
強盗犯はニヤニヤと笑っている。
「だからなんだよ」
「どういう手順を踏んだから認めるのかな?」
「あの時お前、押し倒す気まんまんだっただろ! 手順の問題じゃねえ」
「えー……」
笑っていたのが途端にむくれた顔になった。
「なんだ、拗ねてんのか」
「そりゃあ、キスもしたいしセックスもしたいもん。好きな相手とは」
「おい、いま真っ昼間で仕事中」
むくれたやつの頬を指でつまむ。
とがらせた唇がちょっとかわいい。ついこっちがキスしたくなった。
……何考えているんだろう、俺は。
動揺していると志童が向こうから言ってくる。
「キスしよう、天心」
「だから今仕事ちゅ……!?」
まぶたを伏せた顔が迫ってきて、唇にやわらかいものが触れた。
「……おいっ!」
「仕事終わったら続きしようね!」
続きってなんなんだ。
ヤツは機嫌よさげな足取りで、郵便物を出しに出ていった――。
ともだちにシェアしよう!