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第14話 キスの日

今日はキスの日だって、たまたまつけていた事務所のテレビが言っていた。 「天心、初めてキスした時のこと覚えてる?」 隣で切手を数えていた志童が聞いてきた。俺はヤツの脇腹に軽くひじを入れる。 「覚えてるも何もつい最近じゃねーか」 あの時この馬鹿は、結構強引に俺の唇を奪ったんだ。あれはほぼ強盗だ。 「“こんなの俺は認めない”とか言ってたよねー、天心は」 強盗犯はニヤニヤと笑っている。 「だからなんだよ」 「どういう手順を踏んだから認めるのかな?」 「あの時お前、押し倒す気まんまんだっただろ! 手順の問題じゃねえ」 「えー……」 笑っていたのが途端にむくれた顔になった。 「なんだ、拗ねてんのか」 「そりゃあ、キスもしたいしセックスもしたいもん。好きな相手とは」 「おい、いま真っ昼間で仕事中」 むくれたやつの頬を指でつまむ。 とがらせた唇がちょっとかわいい。ついこっちがキスしたくなった。 ……何考えているんだろう、俺は。 動揺していると志童が向こうから言ってくる。 「キスしよう、天心」 「だから今仕事ちゅ……!?」 まぶたを伏せた顔が迫ってきて、唇にやわらかいものが触れた。 「……おいっ!」 「仕事終わったら続きしようね!」 続きってなんなんだ。 ヤツは機嫌よさげな足取りで、郵便物を出しに出ていった――。

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