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第15話 舵取りをかけた戦い
今、とてもくだらない争いをしている自覚はある。
「「あいこでしょ!」」
「またグーかよ!」
「そっちこそ!」
3回連続グーのあいこで、俺たちの間にはピリピリした緊張が渦巻いていた。
3度目の正直はすでに過ぎ去った。
次はもうパーを出していいんじゃないだろうか?
しかしそんな俺の思考を読み、向こうがチョキで来る可能性もある。
(けど、相手は志童だもんな)
幼なじみの志童は基本的に単純なやつだ。そこまで考えて動く可能性は低いだろう。
頭をフル回転させた上で、俺は次の手を選んだ。
(よし!)
「「あいこで!」」
シンキングタイムを挟んだのに、切り出すタイミングは一緒だった。
「「しょ!」」
「えええ!」
志童が悲鳴みたいな声を上げる。
「ちっ、ねばるな!」
俺も舌打ちをした。
お互いに4度目のグーである。
こうなると向こうは何も考えていないのかもしれない。単に勝負に出られずグーを出し続けているということだ。
(くそっ、パー出しとけばよかったか! 次どうするか……)
汗ばんだ手のひらをズボンで拭った時だった。
「あのう、お客様……」
遠目に見ていたスタッフさんが声をかけてきた。
「ゴーカートはお一人ずつでも乗ることができますよ?」
そう、ここは遊園地で、俺たちはゴーカートの運転席をかけてジャンケンを続けている。
他に客の来ないゴーカート乗り場で、俺たちを待つスタッフさんは暇そうだった。
「1人ずつ?」
志童の視線がそっちを向く。心が動いたのか。
「そうだな。運転席に乗りたきゃ別々に……」
ところが、言いかけた俺の言葉を彼はさえぎった。
「それはダメ!」
「なんでだよ」
「天心と一緒がいい」
幼なじみは子供みたいなことを言ってきた。
「だったら運転席譲れよ……」
そこにこだわる俺もガキかもしれないが。4回もジャンケンしておいて、あっさり引くのも嫌だった。
そして向こうも同じ思いのようだ。
「やだ、俺が運転して天心にかっこいいとこ見せたい」
「かっこいいとこ見せようって駄々こねてたら、逆にかっこ悪くないか?」
「そういう天心はなんで運転席にこだわるの?」
「それはだな。俺のかっこいいドライビングテクニックを……」
言い合いながら、スタッフさんの生ぬるい視線を頬のあたりに感じる。
(ここは大人として譲ってやるべきなのか?)
俺たちは23歳で同い年だが、精神年齢は俺の方が上だと思っていた。
ところが――。
「ジャンケン!」
意識がそれた途端に志童が勝負をしかけてくる。
俺はとっさにまたグーを出してしまった。
「えっ……」
志童が出したのはパーだった。
「おいっ、今のはズルいだろ!」
「えへへ~! ズルくても勝負は勝負だもんね!」
彼は嬉しそうに運転席に乗り込み、俺は愕然としながらも助手席へ進んだ。
大人2人で乗るゴーカートはやっぱり窮屈だった。
「志童、もっとそっち行けよ。狭い」
「むしろくっついて、俺につかまってよ」
「ニヤニヤしながら言うなよ」
「行くよ~!!」
「うおわっ! 急発進するなーっ!」
「あはは! だからつかまってってばー」
ギャーギャー言いながらカートを走らせる。
それもなんだかんだで楽しくて……。
コースを1周回ってきた時には、2人とも子供みたいな笑顔になっていた。
「ねえ天心、もう1回乗ろうよ!」
「じゃあ次は俺が運転席な」
「だめだめ、ジャンケン!」
また乗り場へ進みながらジャンケンのこぶしを握る。
他に客もいないゴーカート乗り場では、スタッフさんがあくびをかみ殺していた――。
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