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カラメリゼの芽生え

搾られた。もうこってり搾られた。 干からびてない?大丈夫? 今日の講義が終わったあと、学食で俺と昴と八雲さんの3人で緊急会議が開かれた。 ダメ元で断ろうと思ったけど、八雲さんに「俺たちが付き合う前はお前もいろいろやっただろ」と予想していたことを言われて何も言い返せず。 出会いからどんな人なのかって根掘り葉掘り聞かれたけど、俺はあくまで尊敬しているお兄さんっていう姿勢を崩さなかった。 昴も八雲さんも納得いかないって感じだったけど、俺が頑固だったのと、出会ったばっかりっていうのもあって思ったより簡単に解放された。 でも、でもさ、これで俺は自覚しちゃったんだよ。 望月さんのこと好きなのかもって。 今まで彼女が何人かいたことはある。けっこう女好きだったと思うし。 最初は俺のスイーツ巡りに喜んで付き合ってくれるんだけど、だんだんと俺のガチさとスイーツへの優先度の高さからみんな離れていった。 「私のこと本当に好きなの?」がいつも別れる前に言われる言葉だった。 俺だってそんなに暇じゃない。好きじゃない女と付き合うわけないって何度説明しても、二言目には「でも私より甘いものが好きなんでしょ」だ。 女って何考えてるかわからない…スイーツと彼女って比べるものじゃない。 そういう別れ方が続いたから、女は好きだけどなるべく特別を作らないようにしてきた。 誘われれば行くし、逆に俺から誘うこともあるし。 告白されないように、さりげなくお前に興味はないと思わせる術も身についた。 だから、もう誰かを好きになることはないなって心のどこかで思ってたのかもしれない。 「あれ、矢吹さん?」 望月さんのお店に行く気分じゃなくなって、公園のベンチで黄昏ていたら八雲さんの恋人、南に話しかけられた。 「おー南じゃん」 「ここで会うの珍しいですね」 「そういう日もある」 南は俺の隣に座った。どうやら放課後、お兄さんの大也さんとここで待ち合わせて、頼まれていたお使いに行くらしい。 「矢吹さん何かありました?」 俺の隣に座った南は開口一番、心配そうな顔をしてそう言った。 八雲さんの受け売りじゃないけど、南は人の気持ちにすごく敏感だ。他人に辛いことがあると、自分のことのように悲しんでくれる。 八雲さんが溺愛するのもわかる。シメられるから絶対に言わないけど。 南にだったら話してもいいかなと思い、ぽつぽつと望月さんのことを話し始めた。 途中何回か質問をされたけど、うんうんと頷きながら静かに話を聞いてくれて。 「話してくれてありがとうございます」 って、ぺこんと頭を下げる。本当にいい子。 誰ですかこんなにピュアで優しい子に育て上げたのは。 「オレ、矢吹さんって恋愛することを諦めたのかなって思ってたんですけど」 「えっ」 「あれ、違いました?」 「たぶん、違わない。よく気づいたな」 「見てればわかりますよ」 えへへ、と笑う南は、昴と八雲さんに絞られたあとだからか天使に見えた。 「矢吹さん、そのドキドキに戸惑ってるのかもしれないけど、オレは大切にしたほうがいいなって思いますよ」 「大切……」 「そのドキドキをどうするかは、矢吹さんが決めればいい」 「意外と難しいこと言うんだな」 「オレはそのドキドキが抑えられなくて、八雲さんにアタックし続けましたけど」 「行動力が若い」 「ほら!そういうところですよ、諦めてるって」 ちょっと怒ったような顔して南が本気で言うから、なんだかおかしくて少し笑ってしまった。 「そうだよな。南の言う通りかも」 「オレ、矢吹さんのこと応援します」 「それは心強い」 「あ、でも、オレたちのほうがラブラブですからね」 ちょっと恥ずかしそうに言う南を見て、八雲さんが好きになるのがよくわかる。 なんて八雲さんに言ったら睨まれるから、これも黙っておこう。 「南に話せてよかったわ」 「オレも話聞けてよかったです」 「じゃあ、俺そろそろ行くから、また」 「はい。頑張って来てください」 もうやだこの子、これから望月さんに会いに行くのお見通しじゃん。 南にガッツポーズで送り出されて、ドキドキとうるさい心臓をごまかすように小走りで向かった。

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