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フリュイは熟れた

南と別れてから小走りで望月さんのお店、Chez(シェ) pleine lune(プレーヌ・リュンヌ)まで真っ直ぐ来た。 望月さんのこととか、俺の気持ちのこととか考え始めると尻込みそうだったから、俺は風になるってずっと唱えてた。 俺がここまでうじうじ考える性格だとは思ってなかったから、自分を見つめ直すいい機会にもなった。ってポジティブに捉える。 とにかく、何も考えずに店まで来ちゃったもんだから、いつも通りカウンター席に座っていつも通り注文していつも通り望月さんの仕事を見ながら待ってる。 つまり、どのタイミングで言えばいいのかまったく考えていなかった。 今ここに俺と望月さんの2人だけだったら問題ない。 午後のおやつや休憩で来てる人もいるから、さすがにこの状況で言えるはずがない。ただの公開処刑。 仕事が終わるまで待つ、といっても閉店は20時。 せっかく勢いで来たのに、あと5時間ここで待つわけにもいかない。 「もしかして、俺に何か用事でもありました?」 「え、エスパー?」 「今日すごく何か言いたそうな顔をしてますよ」 俺がうんうんと悩んでたら、なんと望月さんの方から助け舟。 ここはありがたく乗り込もう。今日を逃すと俺のメンタルがダメになる気がする。 「あの、望月さんに相談というか…大事な話がしたくて、時間がほしい」 「それはここだと言いにくい?」 「かなり」 少し悩んだ素ぶりを見せたあと、望月さんがわかりましたと言った。 「ここの2階が俺の部屋だから、そこで待っててください」 「はい。……はい?」 仕事が終わるまで、望月さんの部屋で待ってろと? セキュリティとか俺のメンタルとか、問題山積みだと思うんだけど…。 望月さんはにっこり笑ってるし、本気なのか冗談なのかうまく掴めない。 「俺が言うのもなんですけど…知り合ったばかりの人間をひとりで部屋にあげていいの?」 「人を見る目だけは自信あるので」 そう言って、俺を試すかのような挑発的な笑顔を向けられた。 薄々感じてたけど、お店に立ってる望月さんは表の顔なのかもしれない。 有無を言わさぬところが八雲さんにそっくりだ。 もちろん頷くことしか選択肢のない俺は2階に1人で待つことになって、注文した新作スイーツの味がまったくわからないという異常事態に陥ったのだった。

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