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第2話

さて、ここで大瀬の夜の顔を紹介しようと思う。 大瀬涼の姉、大瀬 美香(おおせ みか)は、繁華街に何店舗か風俗店を経営するオーナーで、大瀬とは比べ物にならないくらい存在感があり、そして派手で美人だ。 その経営する店舗のひとつに『Mariano』(マリアーノ)という普通より少し高級なキャバクラがある。Marianoの会員からの紹介で入店することができる紹介制の会員システムだが、そこそこ繁盛しており評判も悪くない。 そんなMarianoで、売り上げ一位と二位を誇る女の子が一気に倒れてしまったことがあった。原因はインフルエンザ。 美香はまさかトップ二人が、インフルエンザが治るまでとはいえ一気にいなくなってしまうことを予期しておらず、人手不足に困った挙句、なんとそこで男である大瀬を頼った。 大瀬は影が薄いだけあって顔立ちになんの特徴もなく、擦ったら消えてしまいそうなくらいで、そんな薄顔に美香が施したメイクはとても映えた。 眉をキリッとした形で書き、ぼんやりとした奥二重はアイテープとつけまつ毛とブラウンのカラコンで目ヂカラをアップ。 鼻筋はノーズシャドウでしっかり通り、唇は落ち着いた暗めのレッドカラー。チークは薄めにいれて、シェーディングもしっかり施し、凹凸のあるはっきりとした顔立ちへ。 一見濃く見えるメイクだが、元々薄い大瀬の顔に施しただけあり、ちょうどよくキリッとした顔立ちの美人へと変貌した。 体型はひょろめではあったものの、足や腕を見たら男とバレてしまう可能性もあったので、着痩せ効果のある暗めの黒を基調とした青い刺繍の入った着物を着用。店内は落ち着いた雰囲気のため、着物でも大して浮くことはない。 髪は黒いロングのウィッグを被り、アップで結って纏めた。 完璧に着物美女と言わざるおえなかった。 美香がはじめて自分の弟が涼でよかったと心から思った瞬間である。 キャストである女の子二人が復帰するまで、大瀬は『ユキ』と名乗って店の手伝いをした。声はなるべく高めに出して、声が低い女の子…かな?のレベルにまで持っていった。 そしてそれが大成功だった。 元々が口下手で会話も少なめではあるものの、他のキャストにはない控えめでしっとりとした雰囲気を持ち、痒いところに手が届く接客に何人か太客がついたのだ。 最初はキャストが復帰するまでだったが、復帰した今も週末の土曜日だけ出勤している。 大瀬もそんな自分の姿に最初は違和感があり、でも姉を助けるためだと頑張っていたが、今はわりと楽しんで仕事をしている。 指名をしてくれる客も、キャストもみんな優しいし、なにより会社で必要とされていない立ち位置であるのに、ここでは必要としてくれる人がたくさんいる。それがなによりも嬉しかった。 そして今週も、大瀬は大瀬からユキになって、Marianoへ出勤する時間がやってきた。

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