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第4話
フロアがキャストで色めきだっていたのは、この堀田のせいだろう。会員制ということもあり、あまり若くてイケメンの男が来ることは少なく、大体役職から役職への紹介が多いため、年齢層は必然と高めになる。
少なからず、知り合いとここで会う可能性は予想していた。
ただ今の大瀬はユキであり、とくに今の姿は100人中100人が大瀬=ユキと結びつかない自信はある。ユキは、軽く深呼吸をして笑みを作った。
「こちらこそ、はじめまして。ユキと申します。将さんがご友人を連れてくるのは初めてなので、少し緊張してしまって、すみません。…お隣、失礼します」
なるべく堀田と接触を控えようと将の隣に座ろうとしたが、将がそれを制した。
「ユキちゃん!今日はぜひ清史郎の隣に座ってやって!ユキちゃんの良さを今日は分かってもらいたいからさ〜!俺、今日はマリンちゃんも指名してるから大丈夫だよ!」
余計なことを!
はじめて客に対して舌打ちをしてしまいそうになったが、もちろんそんなことは表に出せない。
けれど少し口角が引き攣るような気がしつつ、ユキは将から離れると堀田の横に、ほかの客よりほんの少し距離を取って座った。
「あの…清史郎さんとお呼びしてもよろしいですか?」
「うん、俺もユキちゃんって呼んでいいかな?」
会社では僕なのに、普段は俺って言うのか。
ユキは呑気にそんなことを思いながら、少し会社にいるときの雰囲気が違うことにも気づいた。
今日の仕事帰りで接待がてら連れてこられてたんだろうスーツのままだが、首元は緩められているし、空気がどこかゆったりしているというか、会社のときのようなシャキシャキした仕事モードって感じではない。
よく見れば笑顔も、今の方が自然というか、あぁ会社にいるときは作っていたんだなぁとわかる笑顔をしていた。
勝手にオフも職場にいるような感じかと思っていたが、多少はやはりオンオフがあるらしい。
「将さんに『俺が世界一愛してる女の所に連れてってやる!』って言われて誘われたんだけど、ユキちゃんのことだったんだね」
「恐れ多いです」
「本音は少しめんどくさいなぁって思ってたんだけど、ユキちゃんを見て、あ、来てよかったって思った」
ウイスキーを水で割ったものを堀田に渡し、自分用にも作っていると将に聞こえないよう耳元でそう囁かれた。イケメンはさらりとこんなことも言えてしまうのかと心で溜息を吐く。
「そんなこと仰って頂けるなんて、光栄です」
「あんまりこういう所は来ないんだけど、美人が多いし、お酒も美味しいね」
「ありがとうございます」
お酒を作る手が少し震えるが、作ってしまえばいただきますと言って一口飲んだ。
とりあえず何度か目が合ってはいるが、バレてはいなさそうだ。内心ほっと安堵する。
ただ会話が続かない。妙に緊張してしまうし、将は将でマリンといちゃいちゃしながらお酒を水のように飲んでいる。
どうしたもんかと、グラスの中で揺れる氷を見つめた。まあ、このまま下手に気に入られるより適当にあしらった方が害が少ないかもしれない。万が一、指名でもするようになってしまえばバレるリスクが増えてしまう。
そう、無難に、やり過ごそう。
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