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第5話

グラスに視線を落とすが、横から感じる視線はヒシヒシと感じていた。 せめて何か話さきゃ、なにを、どうしよう、どうしよう!はじめて出勤したときを思い出すような、同じように焦り始めたところで、じっとユキを見つめていた堀田がぼそりと呟いた。 「……似てる」 「え?」 「会社にいる先輩にすごく似てる」 「ぶっ!」 なんて言った?『似てる』?誰に?『会社にいる先輩』って、…え? 飲みかけていた酒を吹きかけて、咄嗟にグラスから口を離してハンカチを口にあてた。 一応ユキを演じるにあたってイメージしているのがお上品キャラ。それを貫き通してただけあって、そんなユキの行動に今まで加わってこなかった将が、酒の入った赤い顔で心配そうに、ユキの方へ顔を向けた。 「お〜い、大丈夫かぁ?清史郎おまえ、俺のユキちゃんに変なことすんなよ〜?」 「しませんよ!でもちょっと変な事言ったかも、ごめんね、ユキちゃん」 「い、いいえ…こちらこそ汚いところを…ごめんなさい」 まさかもうバレてしまったのだろうか?ユキの心臓はバクバクうるさいくらいに高鳴る。だが先程の発言をよく思い返すと、『似てる』としか言っていない。それにその似ている相手が大瀬とも限らないのではないだろうか。 いや、まさかバレたわけではないだろうと、酒が入った席の戯言に違いないともう一度深呼吸をして、グイッとグラスを呷った。 もうここまできたら、しらばっくれるしかない。変に動揺するより、会話を続けた方が自然だ。 「私がその、先輩に似てらっしゃるんですか?」 「あ、うん…変な事言ってごめんね。初対面なのにこんな事言うの、ほんと失礼なんだけど、男なんだよね、その人」 「えっと…男性なのに、私に似てるんです?」 眉をハの字にして、困ったような顔をしながら堀田に微笑みかければ、慌てたように堀田は首を振った。 「あー違うんだ!…なんか、動作とか。俯いたときの角度とか、ちょっと思い出して、つい言っちゃっただけで、気にしないで!………そうだ、お腹空かない?なにか食べよう」 堀田は慌てたように話を逸らし、テーブルに置いてあるメニュー表に手を伸ばした。向こうから話を切ってくれて正直助かった。堀田が似ているといった相手が大瀬だという確信はないが、用心することに越したことはない。だが堀田の言う通りお腹はすいた。本職を終えてから、支度に時間がかかるため寄り道せずまっすぐ出勤したため、ユキのお腹は空腹である。 メニュー表が広げられれば無意識に距離を詰め堀田に肩を寄せるようにして、メニュー表を覗いた。『私、これ好きなんです。とっても美味しいですよ』なんて微笑みながらメニューのひとつを指さすユキの姿を、堀田が少しお酒のせいとは違う赤らんだ顔で見ていたのには、ユキは気づかないでいた。

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