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第6話

「おはようございます!」 月曜日。いつものように出勤してきた堀田が管理部署に顔を出して、元気に挨拶をしていた。それに対してフロアのみんなは、それぞれ挨拶を返しながら、自然とみんな堀田に集まり、雑談を始める。 大瀬はそれを遠目に見ながら、みんなが倉庫へ乱雑に置いていった書類にパンチで穴を開け、紐でくくりつけたり、ファイルに綴じたり整頓をしていた。 改めて言うまでもないが、先週の土曜日Marianoにきたのは間違いなく堀田だ。しっかり、帰り際に名刺を渡す流れで連絡先も交換してしまった。 自分の携帯ではなく、美香により支給されている夜用のスマホではあるが、あの土曜の日、結局ラストまでいた将と堀田は、でろんでろん酔っ払った将を堀田は重そうに引きずって、タクシーで帰って行った。それまではよかったのだが、まさか来ると思っていなかった夜用のスマホに、次の日の朝メッセージが来たのだ。 『昨日はすごく楽しかった。ありがとう。また会いたいんだけど、次の出勤っていつかな?』 寝起き一番に見たその堀田からのメッセージに、何度か送信先を確認してしまった。もしかしたらあの一番最初に接客した誠からかもしれない。そうに違いないと何度も目を擦って、顔を洗って、コーヒーを飲んで、一呼吸を置いてからもう一度スマホを見て見たが紛れもなく堀田からであり、誠は誠からで『また行きます。次はユキさんを指名します』と別でメッセージがきていた。 返事を返したのはその日の昼を過ぎてから。 美香に頼んで堀田の席に着くのはNGにしてもらおうかとも思ったが、何も悪くない堀田に対して失礼な気がして、罪悪感からできずにいたし、いっそのこと辞めるかまで考えた。 けれど綺麗にメイクをしてもらい、着付けもしてもらい、華やかなフロアで唯一目立って自分を必要としてくれるあの場を、簡単に捨てることも出来ずにいた。 『毎週、土曜日にだけ出勤しています。またお会いできるのを楽しみにしています』 そう返すのでいっぱいいっぱいだった。 もしかしたら連絡先交換したからには一回くらい連絡しておかないと、というマメな男かもしれない。そういう人も少なからずいる。そう、もしかしたら来ないかもしれないし、という希望にかけたのだ。実際、それ以降の返信はなかった。 「おはようございます、大瀬さん」 「っ!」 パチン、と書類に穴を開けてあの日のことを思い出していた大瀬は、突然降りかかった声に大袈裟な程に驚いてしまい、ガバッと顔を上げた。 いつものように挨拶をしたつもりでいた堀田は、そんな大瀬に驚いたような表情で目を瞬かせる。 「あの、驚かせちゃいました?すみません」 「…いや、大丈夫、です。こちらこそごめん。おはようございます」 「でも、はじめて僕のこと見て挨拶してくれましたね」 そういえば、たしかにいつも堀田の顔を見ずに挨拶していた気がする。さすがに社会人として失礼だったな、と苦手意識があるのには変わりはないが目線を堀田から外して謝罪をする。 「ごめん」 「なんだか、謝ってばっかですね。うーん、じゃあ、悪いと思ってるなら、今日僕と一緒にお昼ごはん食べませんか?それで許します」 唐突なお誘いに落としていた目線はまた堀田へと移動した。その目は細められ、あの日とは違うにっこりとした笑みを作っている。 「…てか、外回りじゃないの?」 「僕、今日は午前内勤で午後から外勤なんです」 「そう…。いいけど、それで許してくれるなら」 「じゃあ決まりですね。お昼に三階の食堂で」 そう言って爽やかに堀田は去っていった。変なことになってしまった。そんなことの成り行きをみていた周りは、『あいついたのか』と同時に『なんで仲良さげ…?』みたいな雰囲気で、詳しく知りたそうな人達が数人いるが、大瀬の雰囲気から誰も近寄ることはなかった。 「…あの、すみません。お休みかと思って」 お茶当番のOLが、堀田のおかげで大瀬がいることに気づき、謝りながらお茶を持ってくる以外は。

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