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第7話

お昼になれば、大瀬はフロアを離れて食堂の階がある三階に向かった。普段はお昼になるとコンビニに向かい、近くの公園で食べたりしているので食堂に来るのは久しぶりである。 特別混んでいるわけではない食堂を、うろうろ、うろうろ。先に買っといていいものか、それとも堀田を待つべきか。というか、堀田はもういるのだろうか?大瀬が見渡す限りは見当たらないし、連絡を取ろうにもユキのスマホには連絡先が入っているが、大瀬のスマホには入っていない。 食券だけでも先に買っておこうかと券売機に足を向けたとき、トン、と肩に誰かが触れた。 「遅れてすみません。待ちました?」 堀田だった。 急いできたのか少し息が切れているが、そんなところも爽やかで眩しい。 「待ってない。先に買っとこうかと思ってたけど」 「そうだったんですね、何食べようかな〜。大瀬さんはもう決めました?」 「うーん…」 二人で券売機の前まで移動して、結構豊富な食堂のメニューに悩んだが、大瀬は自分の好物を見つけると悩むことをやめすぐにお金を入れて券を購入した。 「何にしたんですか?」 「グラタン」 「えっ!」 「え?」 へぇ〜僕もそれにしようかな、なんて適当な返事が返ってくると思っていたために、堀田の反応は以外でつられて大瀬も素っ頓狂な声を出した。 何か変な事言っただろうかと、大瀬は堀田を見つめていたが堀田は大瀬から目線を逸らして恥ずかしそうに笑う。 「あーいや、えっと…大瀬さん、グラタン好きなんですか?」 「うん、好き」 そこでふと、土曜日に似たような会話を堀田としたことを思い出した。大瀬の好物はグラタンでとくにMarianoのグラタンが大好きだ。そしてフードを頼むときは必ずグラタンを頼み、あのときもグラタンを頼んだ。 そのときに『ユキちゃん、グラタン好きなの?』と聞かれ『はい、好きです』と答えことを思い出したのだ。 いや…まさかな。と大瀬はあまり深く考えないようにし、そして堀田も同じくグラタンを頼んでいるのを見て、そういえばMarianoでも二人でグラタン食べたなぁ、なんて思い出すが、やっぱり深く考えないようにした。 「僕、最近グラタンが好物になったんですよね」 「…そう」 二人で向かい合わせにテーブルに座り、グラタンを食べる。Marianoほどではないが、具材もたっぷり入っていて大瀬的には大満足だった。これからはコンビニじゃなくて、食堂にしてもいいかもしれないと思うくらいには。 「ごちそうさま」 「ごちそうさまでした」 「じゃあ、俺戻るから」 「あっ、ちょっと待ってください!」 とくに会話が盛り上がるわけでもなく食べ終えれば、もう二人でいる必要もないためそそくさ戻ろうとした大瀬に、堀田は慌てて腕を掴んで引き止めた。訝しげに堀田を見れば、いつものように爽やか笑顔を向けられる。 「あの、C社がうちの製品を購入した履歴がわかるデータか書類持ってませんか?」 「…データであると思うけど。ほしいの?」 「はい、明後日挨拶ついでに行ってみようかと思ってるんですけど、大瀬さんならもってるかもって思って」 「キミのパソコンに送る。それでいい?」 「ありがとうございます!引き止めてすみません、僕も仕事戻りますね!」 そういって堀田は上機嫌で去っていった。 大したことではないがちょくちょく頼まれる仕事に嬉しいだなんて、後輩相手にそんなことを思うなんて我ながら少し情けない気もするが、席に戻ればすぐに頼まれたデータを堀田に送るのだった。

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