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第8話

あれからというもの、毎週土曜日、決まって堀田はユキに会いに来た。将ときたときにちゃっかり会員になったらしく、来るときは毎回一人で、必ずユキを事前に予約指名している。 そして今日も、ユキがホールに入れば角の席ですでに堀田が待っていた。ユキがやってきたことに気づくと、まるでデートで恋人を待っていた彼氏のように席から立ち上がり、満面の笑みで手を振る。キャストたちはその姿にきゃーきゃー言うが、ユキにしてみれば会社の後輩なわけで、複雑な気持ちである。 「こんばんは。今週もあえて嬉しいです」 「俺も嬉しいよ。今日も綺麗だね。…あれ、香水変えた?」 「すごいですね。あまり気づかれないんですが」 逆にこっちが接客をされているみたいでくすぐったい。イケメンということもあって、ホストクラブにでも来た気分だ。 それにしてもここ数週間の間でびっくりするほど堀田はユキに好意を示してくる。大瀬も鈍い方ではないが、たとえ鈍くても気づくのでは?というくらいアピールをしてくるのだ。 「そうかな?でも大好きなユキちゃんのことならなんでも気づいてたいから、本望かも」 「冗談がお上手ですね。お隣、失礼します」 「冗談じゃないんだけどなあ」 苦笑いする堀田に、ユキは『本気にしてませんよ』という意味を含め、笑顔で返す。堀田はその意味に気づいてはいるが、諦めるつもりは微塵もないらしい。実際、先週も同じようなやり取りをしたばかりだ。 「今日もグラタン食べる?」 「はい!食べます!」 二人でグラタンを食べるのももうパターン化されている。実は会社の食堂でも、最近毎日のようにグラタンを食べているのだが、そこでも堀田が午後から外勤の日は二人で食べることが多くなっていた。 Marianoにいるときみたいに会話は多くないが、最初の頃よりは打ち解けている。そんな毎日に大瀬は充実を覚えていた。 だがふと、この後のことを思いグラタンを食べる手が止まる。 それに気づいた堀田は、ユキをのぞき込むように見つめた。 「どうかした?体調悪い?」 「あ…違います。ちょっと熱かっただけで。美味しいですね」 「……そっか。もうすぐ時間だけど、今日も延長むりだよね?」 「ごめんなさい、この後も予約が…」 申し訳なさそうに頭を下げて謝罪すれば、勢いよく首を左右に振って堀田はユキの手を取った。 「また来週、会いにくるね」 まっすぐとした真剣な瞳で見つめられると、本当に堀田は『ユキ』が好きなんだなぁとどこか他人事のように大瀬は思う。もしユキが男だと知ったら、どんな反応をするんだろう。 嫌われる?幻滅する?もう喋ってくれることも、こうやってグラタンを食べることも、手を取ってくれることもなくなるだろうか。 そこまで考えたとき、ユキはハッと我に返った。他の客にこんなことを思ったことがないのに、今自分は何を考えてた? 少し怖くなって、ユキはぎこちなく堀田から離れて次の席へと向かった。 ちなみにここ数週間の間でびっくりするほどユキに好意を示してくる客は、堀田以外にも一人いる。そしてその一人が、ユキの悩みの種でもあった。 「あっ、あ、ユキさん!」 「…こんばんは、誠さん」 そう、堀田とはじめてMarianoであった日、一番最初に接客をした辻 誠である。

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