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第9話

こいつがまた、曲者だった。 誠も同じように毎週の如くユキを指名した。誠も堀田と同じようにユキに好意を示してくるのだが、それが少し異常だと、ユキは感じていた。 「あっあの、これ…プレゼント…なんですけど、受け取ってくれますか?」 「…ありがとうございます。でも誠さん、毎週こんな高価なもの、私恐れ多くて受け取れません」 某ブランドバックに某ブランドアクセサリー、某ブランド化粧品に、某ブランド服。毎週毎週必ずうん十万円もする高価なものを、誠は持ってきてユキに貢いでいた。 かつ、毎回のようにシャンパンを何本も開けていく。 ユキは危機感を覚えていた。決して誠は金を持っていそうな風貌ではない。むしろ毎週会う度に痩せていくし、顔色も悪くなっていく。そしてしまいには、 「ぼっぼっぼくのプレゼントがっ、うっ受け取れないっていうのかよぉ!!?」 これである。 自分の為にも相手の為にも、そろそろ離れるべきかもしれない。事前に美香に相談してあったこともあり、ユキは傍でこっそり監視していた美香に目配せした。すると隠れていたボーイがササッと影からでてきた。 「失礼します、辻様。大変申し訳ございませんが、ユキの体調があまり優れないようで…今日はお引き取り頂けますでしょうか?」 「っ!…っ!!」 淡々と話すボーイの姿と俯くユキの姿に、包装されたプレゼントを抱える誠は顔を真っ赤にしながらぷるぷると震え、しまいにはボーイを突き飛ばして店を出ていった。 ◇ 「可哀想だけど、出禁ね」 営業が終わった控え室で、美香とユキは二人で誠について話していた。 「悪い人じゃないんだけど」 「そうねぇ。ユキに惚れさえしなければちょっと根暗なおじさんで終わってたんだけど」 プハーっと豪快にタバコを吸う美香の横で、ユキはささっと着替えを終え、帰り支度を済ます。 「大丈夫?送ってこか?あいついるかもしれないよ」 「いや、俺男だからね。女装してるけど」 帰り支度といっても、基本女装したまま大瀬は帰る。着物だけは美香に解いてもらって、客からプレゼントでもらってきた洋服を着ていくのだ。今日は紺のニットワンピースに、黒のタイツと黒のヒールを履いた。 もうプライベートまで女装してしまっているのが怖い。しかもそれを楽しんでいる。残念ながらメイクは自分で出来ないので、土曜日限定になってしまうが。 「女装も板についてきたわね」 「どーも。じゃあ帰るよ。おやすみ」 「おやすみー」 Marianoをでれば、いつもは賑やかな繁華街もこの時間帯は人気がなく、静寂としている。 駅方面に行けばこの深夜でも賑やかかもしれないが、生憎大瀬の家は反対方向である。 大瀬は家の方面へと足を向けた。 数分歩いただろうか。なんだか自分の足音とはべつで、靴音が響くのはきっと気の所為だと、そうだと思いたい。 早歩きをすれば、その靴音も同じように早くなり、ゆっくりと歩けば、その靴音もゆっくりになる。まさか本当に、誠なのだろうか?確かめたくても恐怖で振り向くことができない。 このまま行けば家を特定されてしまうし、だからといって、どこに逃げれば?この辺りはほとんど住宅街で、どこも電気は消えており、照らすのは外灯のみ。 必死になって考える頭でふとそこの右を曲がった先に、できたばかりのコンビニがあることを思い出した。もうなんでもいい、そこに逃げるしかない! まだ今から走ったら追いつかれてしまうかもしれない、ギリギリまで引き伸ばして、伸ばして、曲がる直前にダッシュした。 もちろんもうひとつの靴音も早まって走ってきた。ヒールで走りにくいのが難点だったがとりあえず追いつかれずにコンビニに逃げ込むことに成功した。 走って入ってきた大瀬に対して、店員は驚いたようにしていたが、大瀬の顔を見るなりわかりやすくそわそわしている。 そんなこと気に止めてる暇なく、はぁはぁ息を切らしながら雑誌コーナーに移動した。中から見る限り外に人は見えないが、震える手でユキ用のスマホと大瀬用のスマホを取り出し、誰かに助けを求めるべく連絡帳を開いた。 美香はだめだ、あんなでも女だし…だからといって頼れる友人や客なんて… 「客…」 指の先にあるのは『堀田 清史郎』の文字。 大瀬の指は、迷わず、その文字をタップした。

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