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第15話
「メイクとかはさ、自分でやったの?あとさ、なんでキャバクラで働いてたの?お金に困ってたとか?」
少し落ち着いたころ、大瀬はキッチンに立ってコップを二つ用意してお茶を入れると堀田の前に持って行った。ありがとう、とほほ笑んでそれを堀田は受け取り、コップのふちに口をつける。
そしてずっと気になっていたんだろう疑問を、おそるおそるといった感じで大瀬に聞いてきた。
「俺、姉がいるんだけど…姉にメイクはしてもらってた。ウィッグとかも用意してもらって…」
「お姉さんいるんだ」
「Marianoに美香っていたでしょう。覚えてる?」
「…ああ!!えっあれお姉さんだったの!?」
美香、と名前を告げれば堀田は何度も『ミカミカミカ…』と連呼して考えていたが。すぐにハッとして顔を上げて思い出したように声を上げた。その顔はとても驚いており、たしかにユキとも、大瀬とも似ていないため驚くのは仕方がないと大瀬は苦笑いをする。
「えっじゃあMarianoのオーナーって大瀬さんのお姉さんってこと!?」
「うん、そう。最初は病欠で休んだキャストの代わりに女装して手伝ってたんだけど…」
「ハマッちゃった?」
「う、うん…」
女装にも、キャバクラという空間にもハマってしまったということを改まって伝えるのは恥ずかしくて大瀬の顔がうつむく。そりゃあ我ながら自分の女装は完ぺきな美女だと自負しているし、もし自分でも器用にメイクをすることができるのであれば、何もない休日でも女装してでかけていたかもしれない。いや、していただろう。だからといって、決して自慢できる内容ではない。大瀬の返事をする声も小さくなる。
「そっか。じゃあお姉さんにメイクしてもらわないとユキちゃんには会えないのかー」
「うん…あ、でも来週からMarianoに復帰しようかなって姉さんに相談しようと思ってるから、」
「は?」
「え」
もう堀田にはネタバラしをしたし、もう後ろめたいこともないので大瀬はMarianoに復帰するつもりでいた。Marianoを辞めるきっかけとなったのが堀田に会いたくないという理由だったため、もう今の大瀬もユキも受け入れてもらえるんであれば問題は解決したと思ったからだ。
だがそんな大瀬の言葉をさえぎって堀田の低い声が耳に届いた。『そうなんだ!じゃあユキちゃんにも会えるんだね~』なんて答えが返ってくるとばかり思っていた大瀬は、怖い顔をしてこちらを見つめる堀田に、驚きと困惑を隠せずにいる。
「復帰する必要ないよね?またあの辻誠が来るかもしれないし、また危ない目に合うかもしれない」
「…あの人は出禁ってことで姉さんと話が片付いてる」
「…っもう!なんで変なところで鈍さを発揮すんの!」
「ごめん、なんでそんなに怒るのかわからない」
大きなため息をはいて堀田は自分の髪をくしゃりと触る。
Marianoに復帰することに対して怒っているんだろうか?と大瀬は考えるが、それと怒る理由が結びつかず首をかしげるばかりだ。
「あのね、好きな人がさ、他の男のところに行って愛想ふりまいたり、スキンシップとってる姿を見るのって、結構苦痛なんだけど」
「…っ!」
急激に顔に熱が集まるのが分かった。
ああ、そういうことかと、言われてみればなんて当たり前のことに気づくことができないでいたんだろうと自分の愚かさに申し訳なくなってしまう。
「Marianoは、俺にとって、俺を…ユキを必要としてくれる場所で、居心地がよかったんだ。だから、戻りたいな、なんて深く考えずに勝手に決めてた、ごめん」
「そうかもしれないけど、今大瀬さんの目の前には一番大瀬さんを必要としてる男がいるでしょ。それじゃあ不満?」
「全然不満じゃないです…欲張りだった。ごめん」
「謝ってばっかだね」
「……ごめん」
堀田の腕が伸びてきて、大瀬を包んだ。甘い香りが鼻腔をくすぐって、ほっと落ち着く。と同時に視界が反転して、大瀬は堀田に押し倒されていることに気づいた。
真剣な顔で見下ろしてくる堀田の顔に、どんどん胸の鼓動が早鐘を打つ。
「あの日の続き、してもいい?」
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