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ハルト(龍之介side)
「リュー…….」
役員棟の執務室から出ようとするなり、か細い声に呼び止められて振り向くと、分厚い前髪とゴーグル状の眼鏡で素顔を隠した小柄なハルトが立っていた。
腐れ縁の幼馴染はしばし、もじもじとためらっていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「話……ある……いい?」
幼い子供のようにたどたどしい言葉だったが、けして頭が弱いわけではなく、過去のトラウマのせいでコミュニケーションにかなりの難があるだけだ。
学園の生徒たちの中には何であんなもっさりとした冴えないお荷物が人気者ばかりの生徒会役員に紛れているのだと、陰口を叩く者も多くいたが、実際のハルトのスペックの高さを知ったら度肝を抜かれるに違いない。
身体測定など適当に受けているから公表こそされていなかったが、160センチそこそこの小柄な身体でありながら、20キロもの装備を背負いながら三日三晩歩き続ける無尽蔵の体力はもとより瞬発力、動体視力から全身の筋力に至るまでくまなく鍛え上げられた身体は、仲間内でもトップクラスの戦闘力を誇る。
何よりPCを扱わせたら上には出る者のいない根っからの天才であり、問題児ばかりを有する学園のセキュリティー管理は一手にこのハルトが担っていた。
「どーした、ハル?」
できるだけやさしく聞いてやる。
自分自身の機嫌の悪い時にはそうもいかないことも多かったが、ハルトの場合、精神的に負荷がかかるとより一層言葉が出にくくなる。
必要な情報に最短距離でアクセスしたければ、とにかくやさしく穏やかに、そして急かないのが鉄則だった。
数秒の時が無為に流れた後、
「新しい……ミッション……きた」
やっとハルトが本題を口にした。
「見せろ」
ハルトの後ろにあるPCをのぞき込むと、ミッションに関する基礎情報が一方的に羅列されていた。
「これそのままルイとマコにも送ってやれ。装備一式持って2時間後には発つ。輸送機のランデブーポイントまではヘリで飛ぶか」
「……ん」
すぐに作業に移ったハルトの黒髪をくしゃりと撫でた。
「いいコだ」
ハルトの頬がほわんとピンクに染まる。
どういうわけかはわからないが、ハルトは自分に惚れていた。
だから自分に恋人ができるたびに、それはひどく荒れてくれる。
かつて周りが敵ばかりだった頃、その能力にいち早く気づき拾い上げた自分を神か何かのように絶対的なものとして崇め、重度依存のレベルで慕っている節がある。
まったくもって困ったものだとため息をついた時だった。
「ハルばっかずりぃーっ」
背後から元気な声がしたかと思うと、ガシッと全身で飛びつくようにして抱きつかれた。
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