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マコト(龍之介side)
「……マコ、重いから降りろ」
いくらハルト同様に細くて小柄なマコトでも、全身筋肉の身体はそれ相応に重かった。
「やだね。降りて欲しかったら、オレにもイイコイイコしてくれよ!」
「……オマエはガキか」
くだらない張り合いにげんなりしたが、
「ガキ万歳!」
悪びれず撫でてと繰り返すマコトに、苦笑した。
「……ほら、撫でてやるから、さっさと支度しろ。お待ちかねのミッションが待ってンだ」
「マジ!? ちょうど退屈してたんだっ」
クリッとした目を見開き、嬉々として地面に降り立つと、マコトは喜びを爆発させるように腰元に刺してあった二本のナイフを手に取った。
途端に人好きのする表情豊かな顔つきが一変する。
ナイフを手にすると人が変わるのは、知る人ぞ知るマコトのおかしな癖だった。
眼光が鋭くなり、口元には皮肉げとも取れる薄ら寒い笑みが浮かぶ。
幼さの残る小動物めいた雰囲気はどこへやら、立派な闇の住人の誕生である。
クルクルとジャグリングの要領で二本のナイフを空中で回転させながら、危うげもなく投げたりつかんだりを繰り返している。
普段なら周りのものを壊したりケンカを売られたりと、少々危険なだけで済むのだが、ミッション前の今だけは勘弁して欲しかった。
もともとわりと良識的でハルトの兄貴分でもある、仲間内のバランサー役を担うマコトが火薬庫と化すと、一気にチームの統制が取れなくなる。
「マコ、……イイコだから、な? そいつを寄越せ」
「……は? イイコとか、ナメてんの?」
ヒュッと勢いよく飛んできたナイフは避けなければ確実に眉間を貫いていただろう。
「……っぶねェなァ」
さすがに冷や汗が背中を伝った。
動作を見てからでは確実に殺られていた。
気配よりも以前の空気を読んだが上の、ギリギリの勝利だった。
「誰が避けていいっつったよ?」
だが、こんなことではマコトの怒りと興奮は収まらない。
「マコ……め……っ」
ハルトが背後から抱きついたが、容赦なくナイフを持ったままの腕で振り切った。
ナイフの切っ先がハルトの頬の皮膚をほんの薄皮一枚切り裂いたが、ガン無視だ。
普段のマコトなら真っ青になって反省しまくり、手当てに奔走したろうが、到底そんなやさしさは期待できそうになかった。
とその時、実にいいタイミングでチームメンバーの最後の一人であるルイが現れた。
「暇だと? そういうセリフは次やるイベントの原案を仕上げてから言ったらどうだ?」
氷のように冷たい声にマコトの意識がそれた瞬間を見逃さなかった。
ナイフを握っている方のマコトの拳を迷わず跳ね上げた。
ナイフは人気のない壁に突き刺さり、事無きを得る。
ひねり上げて両手を縛り上げたいのは山々だったが、この後のミッションのことを思えば、仲間の戦闘力を削ぐのは懸命ではなかった。
「……っ」
途端に憑き物が落ちたようにマコトの表情が柔和になり、二度三度と瞬きをした。
「マコ、大したことはねェと思うが、責任持ってハルの頬の傷を看てやれよ」
「あっちゃ〜、またやっちゃった? ハル、マジでごめんなーっ」
「へーき……」
その様子を眺めながら、チームで唯一自分と目線の大した変わらないルイの肩を叩くと、助かったと脱力しながら告げた。
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