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ルイ(龍之介side)

「……マジでどうなることかと思ったぜ」 「だから普段からナイフを持たすなと言っただろ」 背中まであるサラサラの金髪と鮮やかな碧い目をしたルイは、仲間内では極度の人嫌いで有名だったが、生徒会役員として表舞台に出る時には見目の良さを最大限に有効活用したさわやかな王子キャラで、学年を問わず多大な人気を博していた。 本人いわく多少面倒でも外面を取り繕った方が、あらゆる交渉事が思い通りに進んで、結局は面倒がないのだという。 「つってもよ、ナイフ取り上げたら、そりゃァもうマコじゃなくね?」 「大事なミッション前に仲間をいたずらに危険にさらすよりはいいと思うが?」 正論である。 自分もこういうことがあるたびにいい加減取り上げなければとは思うのだが、ナイフを持ったマコトとやり合うのは実に楽しかったりする。 今日も今日とてミッション前でなければ、嬉々として戦いを挑んでいたところだ。 「てか、いつからいた?」 「マコトの豹変前にはギリギリ到着していたな」 「で、ナイフが一本になるのを待ってたと」 「不満か?」 「や、オレでもそうしたぜ?」 だったら褒めろと、圧力のある碧い瞳が無言の内に訴えてくる。 大人びたルイだけに、こうして年相応の子供っぽさを見せられると妙に甘やかしたくなるから困る。 その相手が自分だけだとわかっているからこそ、よけいに。 「はっ、……さすがはオレの片腕だ」 サンキュ、と形のいい耳元に濡れた声を流し込めば、フルッとルイの身体が震えた。 込み上げる欲情を散らすかのように首を振ると、後で覚えてろよ、とこちらを睨みつけ、大股でハルトのもとに歩いていく。 世間的な学位こそ有してはいなかったが、途方もない努力のもとに総合的かつ実践的な医術に精通したルイは、天才肌の闇医者として数多の命を救ってきた。 絶対に失敗できない難易度の高い手術を闇で請け負うことも多く、報酬として億単位の金が動くことも珍しくはなかった。 ルイはハルトの前でひざまずくマコトを押しのけ、ハルトのあごを乱暴につかんだ。 「痕も残らない程度のかすり傷だ。とっくに血も止まってるのに、いつまで被害者面してるんだか」 ひやりとするほど冷たく言い放つ。 「マコト、おまえも甘やかすな」 「そんな言い方ってあるかよっ?」 「そんな言い方も何も、おまえが引き起こした事態だろう。元凶が威張るな」 マコトがグッと言葉に詰まった。 ルイの言葉は正論だけに、相手の怒りを買うことも多かった。 「こんの、冷血漢!」 「だから?」 言い返しながら、ルイが棚の上の小箱からチューブを取り出した。 「まったくもって大したケガじゃないが、灼熱の砂漠地帯に行くんだ、念のため抗生物質入りの軟膏をつけておけ」 ハルトの胸にチューブを押しつけたルイが出発時間だけを確認すると、早々に執務室から去っていく。 途端にハルトが深く吐息した。 些細なことでビクつくハルトと、それを未熟ゆえの弱さと切り捨てるルイの相性は史上最悪だったが、互いにやるべきことはしっかりやっている。 ハルトがセキュリティーや情報収集に手を抜いたことはなかったし、ルイはルイで必要な治療だけはどれほどの悪感情がある相手だろうが怠らなかった。 その点においては互いに認め合い、共存し合えていると言えるのだろう。 「ルイもどうせ薬くれんなら、やさしい言葉の一つもかけてくれりゃ、印象だって全然違うのにさ」 ぶつくさとマコトがボヤいたが、マコトからナイフを奪えないように、あの不器用さがルイなのだ。 「冷たいだけの男じゃない。それはわかってンだろ?」 闇医者として稼いだ金の多くは、自分たちの古巣でもある荒廃したスラムや、親の虐待やネグレクトで薬も買えずに苦しんでいる子供たちのもとに密かに流していると知っていた。 広い情報網を持つハルトが気づき、ずいぶん前に教えてくれた。 自分で稼いだ金なのだ、贅沢をするのも隠し資産として貯めるのも自由なのに、必要な薬剤や器具を補充するだけで、自分のために使っている風もないのだと。 「アイツは大したヤツで、誇れる仲間だ」 「……ん」 ハルトがうなずき、マコトもまた否定しなかった。

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