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ミッション(龍之介side)

サイレンサーつきの自動小銃から右手を離し、チームの面々に身振りで付いてこいと指示を出すと、迷路のように入り組んだ路地に踏み込んだ。 少し風が出てきたようだ。 訓練された足音は夕暮れ時の乾いた風が赤砂を運ぶ音に消され、敵に届くことはない。 生暖かい風でもないよりはマシだ。 茶系の迷彩服と土色のターバンで目元以外を覆い隠した姿で長時間灼熱の太陽に焼かれた肌を、いくらかでも癒してくれる気がした。 「……!」 前方で人の気配を感じ、止まれと仲間に指示を出す。 すっと深く息を吸い、少し吐いてから止めた。 本気で気配に集中する時は、自分の呼吸音さえ邪魔になる。 足音が近づいてきた。 3…いや、4人か。 右手の人差し指を立てて、4人中、1人は捕獲しろと指示を送った。 ターゲットのいる場所を正解に洗い出せなかった以上、敵を捕まえて吐かせるしか道はない。 できれば単独行動しているヤツを捕まえたかったが、この際、贅沢は言っていられなかった。 4人の隊を分割し、十字路の左右に分かれ敵を待つ。 すでに敵の本拠地に違い。 自動小銃を下ろし、ナイフやワイヤーで接近戦に備えた。 背中を汗が伝い落ちていく。 喉の奥がヒリつき、暑さのあまり目眩がした。 砂漠地帯で限界を超える暑さと闘っていると、時折ひどく投げやりな気分になるのはなぜなのか。 太陽に……それこそ灼熱の大地にまで、この小僧が無駄なことをと嘲笑われている気がした。 だが、怒りや苛立ちを覚えたら負けだ。 外部の変化に対して感覚器官だけを素直に開け放ち、そこだけに集中して、余分なエネルギーの消費を断つ。 やがて敵を射程距離内にとらると、全身の細胞が弾けたように視界がクリアになった。 どこの筋肉をどんな強さで動かせば目的を達せられるかは、訓練された身体が覚えている。 自分と仲間3人の身体が音もなく動き、ナイフとワイヤーが閃いた。 やがてドサリと敵が倒れる音が重なった。 2人の利き腕にはナイフが刺さり、ワイヤーに脚を取られた男がその上に重なっている。 振り返ればすでに仲間の一人が敵の首に手刀を落とし、即刻気絶させていた。 コイツらは運がいい。 戦闘中にある程度余裕があれば、こうした末端まで手をかけることはせずに済む。 子供を売り買いするディーラーや組織の幹部ならばともかくも、単に金で雇われた兵隊をいくら始末したところでトカゲの尻尾切りにしかなりはしない。 彼らの家族からすれば、たとえ金で雇われ悪事を働くクズだとしても、家庭では大事な父であり夫に他ならないのだから。 一家の大黒柱を失い路頭に迷うガキばかり見てきたからだろうか、なるべくなら生きて返してやりたいと思ってしまう。 いつかその甘さが命取りになると言われても、それならそれでかまわなかった。 もっとも仲間の命に危険が及ぶ時は話が別だ。 迷わず銃の引き金を引く。 聖人君子を気取るつもりもない。 すでにこの手は血に塗れていると己を嘲笑いながら、仲間と協力して敵の手足を縛り、口に入れたタオルを後頭部で結び、道の端に投げ出した。 髪をつかみ、壁に押しつけて、覚醒を待つ。 「ぅ…っ、……!?」 ナイフを暮れ時の太陽にかざし、切っ先を額に押しつけると、腕の中の身体がブルブルと震え出した。 「……ガキばどこにいる?」 ジッと目を見据え、抑えた声音で問うた。 その声の魅惑的な響きに状況も忘れて魅入られた敵が、ハッと気づいたように知らないと首を振った瞬間には、ナイフを深々と男の脚に突き立てていた。 「……っ!!」 声なき悲鳴が空気を揺らす。 「……助かりたいなら、吐け」 命を危険にさらされた敵は、藁をもつかむ勢いでコクコクとつなずいた。 「……イイ子だ」 叫んだら殺すと視線で語り、口元のタオルを外すと、大きな声を出せないように、喉元をグッと指で押さえつけた。 「????っ」 異国の言葉は自分には理解不能だったが、幸いルイは多国語を話す。 「〜〜〜〜」 「〜〜〜〜」 「この先を右に曲がった奥の倉庫だ。見張りは2人。鍵はその見張りが持ってるらしい」 必要な情報は引き出した。 そう判断し、人質の首元を押さえる指に力を込めた瞬間、敵が目を剥いて落ちた。 帰りにここを通る時に子供たちが驚かないよう、敵の身体を適当に隠して、倉庫に急いだ。 場所さえわかれば、後は造作もなかった。 見張りを倒してから鍵を開け、暗い中をうかがえば、十数人の年端もいかない子供たちの揺れる瞳が見つめてきた。 「〜〜〜〜」 助けに来たとのルイの呼びかけに、ざわついていた中の子供たちが大人しくなる。 自分とルイが先頭に立ち子供らを従え、ハルトとマコトが後方から護衛する形で帰りを急いだ。 幸い周囲の警備はぞんざいで、路地の外に出るのは難しくなかった。 死角になった砂丘の一角に隠されたランドローバーから別働隊が駆け寄ってきて、次々と子供たちを確保していく。 自分もまた仲間とともに一台のランドローバーに乗り込むと、ターバンを外して深く息をついた。

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