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ブラフ(龍之介side)
耳に防音用のヘッドホンをつけて、サブマシンガンを構えた。
スクリーンの中の動く敵を、次々と倒していく。
弾倉が空になると、棚の上の狙撃用ライフルと交換した。
空調で即席の乱気流を作り、複雑な風を読む。
地面に寝そべり、照準を定めた。息を吸って、少し吐いて、完全に止めた。
乾いた破裂音がして、再び辺りに静寂が戻る。
調子は悪くない。
肩関節を整復した影響もなさそうだ。
面白い展開になりそうで黙っていたが、関節の幾つかを自由に外したり入れたりするなど、実は造作もないことだった。
だました自分は当然悪いが、だまされた方だってバカなのだ。
どうせなら秘密はギリギリまで抱えて、チャンスを待つつもりでいた。
不意に、背後でピューと口笛が鳴る。
振り返れば、金髪の長い髪を首の後ろで一つにくくったルイが立っていた。
「相変わらず鮮やかだな。全弾、的のド真ん中に命中だ」
言葉の内容とは裏腹に、不機嫌丸出しの声。
学園内の人気投票でも5指に入る人気者のルイだが、笑顔を浮かべない素は愛想のカケラもなかった。
「マコトみたいにぎ立てるつもりはないが、オレだって当然面白くない」
「けど、止めないでくれンだろ?」
まーな、とルイが肩をすくめた。
「のぼせ上がってるヤツに何を言ってもムダだし、面倒事は苦手だ」
安全確認をして起き上がり、ライフルを肩にかけると、ポン、とルイの肩に手を置いた。
「オマエのそーゆードライなトコ、嫌いじゃねェよ」
「どうせなら好きって言え」
冗談めかした会話に、時折本気が混じる。
気づいても応えてやれない以上、さらりと流してやるのがやさしさだろう。
「……残念。今そのコトバを言いてェのは、一人だけなんだわ」
「だろうな」
案の定、即座に引いた。
もとより愛情というものを信じていない節がある。
身体の熱や友との絆は信じられても、たった一人に向かう、他者を切り捨てるほどの強い感情を恐れている。
「……オマエ、あンま勉強しすぎンなよ?」
がむしゃらに医術を学び没頭するルイは、時にひどくバランスを欠いて見えた。
人は何かが足りないと思うと、その不足をがむしゃらに別のもので埋めようとする。
だが、どんなに努力してもピントがズレていれば報われない。
本当に欲しいものが何なのか、直視する勇気が必要だと、いつかルイに自分以上に好きになれる相手ができたら言ってやりたいと思っていた。
「しばらくは東棟に泊まるから、なンかあったら連絡しろ。それと、ハルにあんま当たンなよ?」
「イライラさせるアイツが悪い」
「確かにアイツはオドオド、ビクビク、ウザイの極致かもしンねェが、ハッキングやメカ扱わせたら右に出るヤツはいねェし、戦闘能力だってオレやオマエに劣らねェ」
実際のところ、世間的に最も需要があるのはハルトに違いないのだ。
「人をバカにするヤツは、結局ンとこ自分に自信がないンだって、オマエ昔、言ってなかったか?」
「……さぁな」
意固地なルイをこれ以上責めたところで埒があかないと苦笑して、話題を変えた。
「アイツが寝た頃、また戻る。訓練をサボる気はねェから、安心しろ」
「で? ソイツが起きる前にベッドに忍びこむって? 何だその二重生活は」
「1日3時間も寝りゃ問題ねェよ。知ってンだろ」
「早死にするぞ」
「そン時はそン時だ」
片手を上げて応え、足早にその場を後にした。
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