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甘やかな唇(龍之介side)

「……へェ、ココがオマエの部屋か」 士郎の性格を表すように極端に物が少なく、整理整頓が行き届いていた。 まったく何を考えているのやら。 お世話するんだから一緒の部屋で寝るのは当然だよね、と笑った克己の目が一切の口答えは許さないと語っていた。 急に取り除かれた障壁に、多少拍子抜けしたものの、据え膳食わぬは男の恥。 断りもなくベッドに腰かけると、肩をすくめて見せた。 「脱ぐの手伝ってくンねェの?」 さっそく克己が言うところのお世話を促してみる。 普段の士郎なら即座に蹴りの一つも飛んできそうなものだったが、先程から呆然と立ち尽くしたままピクリとも動かない。 よほど克己の言葉がショックだったと見える。 「……面白くねェなァ」 弱った士郎を見るのは大好きだが、それは自分が弱らせてこそだ。 自分が目の前にいるのに他の男を想うなど許せなかった。 立ち上がり、三角巾で吊っていない方の手で胸ぐらをつかむと、強引に自分に引き寄せた。 声で嬲るのも悪くはないが、今はその唇が欲しかった。 「……油断したオマエが悪いンだぜ?」 薄く引き締まった唇を重ねると、それだけで何かが満たされる気がした。 だがすぐに物足りなくなり、舌でペロリと舐め上げる。 濡れた唇の色っぽさに、すぐさま己のものブチ込んで、喉の奥深い場所まで犯したい衝動にかられたが、まずは味わうことから始めようと、想像だけでズクンと質量を増した下肢をなだめにかかる。 このままどこまでイケるかと、唇で唇を食むようにやわやわと刺激したが抵抗はない。 思いのほかやわらかいことに驚いた。 硬質な見た目にやわらかな唇というのは、それだけでひどく淫らな妄想を掻き立てた。 会えなかった間、キツイ入り口を越えた内腔を想像しては、幾度も自分を慰めた。 追い上げては堕とし、焦らしては強請らせて、理性が飛ぶくらいドロドロに溶け合って眠りたい……。 「……っ」 さすがにキツくなってきた下肢をくつろげて、指先で心持ちアゴを引くと、わずかにできた空間に、尖らせた舌を侵入させた。 熱い舌が触れ合った瞬間、それまで焦点の合っていなかった士郎の瞳に、急速に光が戻ってきた。 「……っ!!」 こちらを突き飛ばすなり、士郎はシャツの袖口で乱暴に何度も己の唇をこすった。 「……何度こすったって、消えやしねェよ」 こちらの濡れた声に反応し、獲物がゾクリと身体を震わせるのがわかった。 「……オマエのその唇は、たった今オレに犯されたンだ」 己の唇を指先でスッと撫で、声の毒とともに深く刻みこむ。 ……おまえはオレのものだと。 再び距離を詰めると、士郎が一歩後ずさる。 怪我人相手に乱暴できるような男ではない。 それでも視線はそらさなかった。 獣に狩られる小動物の最後のあがきのように、必死で睨みつけてくる。 負けを認めたら、そこで終わる。 なし崩しに心が崩れてしまうことを知っている。 この男は喰われるその瞬間まで、こうして抵抗を続けるのだろう。 切腹を覚悟した武士のようなものだ。 惨めにすがるくらいなら、ためらいもなくその命を投げ出せる。 気高く潔く、月明かりに濡れて咲く花のように美しく清廉で、ずっとこのまま眺めていたいという思いと、今すぐ手折ってしまい衝動の間で、激しく心が揺れた。 「……なァ、克己がアイツとくっついたら、オマエはどうすンだ?」 もっさりしたメガネ少年の達也に、克己はえらく興味をソソられたようだ。 今のところ本気ではなくとも、こと恋愛に関しては、いつ何時どう転ぶかわからない。 「……オマエは素直に手ェ離しそうだよなァ。それがアイツのためだとか言ってよ」 物わかりがよ過ぎると、損するぜ? 髪に触れようとした手を叩かれた。 弱ってはいるが、折れてはいない。 このまま無理に抱けないことはないだろうが、互いに血だらけになることは目に見えていた。 身体を傷つける抱き方は本意ではない。 あくまで身体は甘く溶かしてやりながら、心を追い詰め、その落差に普段は凛とした男が崩れていく。 そんな姿こそが魂に火をつけてくれる。 「……今日はもう疲れた。風呂入って寝ようぜ。あ、当然風呂は一緒だぜ? この手じゃ髪も背中も洗えねェからな」 ホッと緩んだ士郎の空気が一瞬にして張り詰めるのが、ひどくおかしかった。

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