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狩られる側の心理(士郎side)
浴槽に湯けむりが立ち上る。
訳ありかつ金持ちの子息のそろう桜華学園だが、従者の部屋の風呂は一般家庭のそれと大して変わらない。
狭くはないが、男二人が並んで入るには、少しばかり手狭だ
それを理由に断ってもみたが、
「ならスペース確保のために、抱きしめて入ってやろうか?」
より危険な方向に話が流れ、口をつぐむ他なかった。
どうしても嫌だと言えば、無理強いはできないはずだが、その代償に何を要求されるか知れたものではない。
弱みを見せた瞬間、グイと間合いを詰めてくる。
気づいた時には戻れない場所まで踏み込まれそうで。
そんなギリギリの拮抗した力量の相手と戦う試合にも似た緊張感が、龍之介との間には常について回る。
一瞬も気が抜けない。
ひどく疲れるとため息を噛み殺しながら、湯加減を確かめ、部屋に戻った。
「準備できたみてェだな。……ンじゃまずは、脱がせてもらおうか」
たかが片手を吊っているだけなのだ、1人で脱げそうにも思えたが、龍之介は当然の要求とでも言いたげにベッドサイドに腰掛けたまま、指一本動かそうとしない。
面白がるように見上げてくるその顔を、思いきり殴りつけたい衝動と必死に戦いながら、近づき、半歩手前に立った。
第二ボタンまで外しているせいで、もとより半ばはだけた状態にあるシャツのボタンに手をかける。
刺すような視線を感じた。
殺気にも似た、情欲の気配。
男の自分が、まさか狩られる側に回るとは思ってもみなかった。
これほどまでに追い詰められた気分になるのは、狩られる側の当然の心理なのか、はたまた相手が龍之介ゆえか。
判別がつかなかった。
素肌にシャツ1枚を無造作に羽織っただけの龍之介の肌が、ボタンを外すたびにさらされていく。
見事に割れた腹筋に、目を見張った。
実践空手をたしなむため、鍛え上げられた男の身体など見慣れてはいたが、ここまでの身体に出会うのは初めてだった。
無駄な肉が一切ない、浅黒く焼けた肌。
いったいどんな鍛え方をしたらこんな身体になれるのかと、思わず状況も忘れて凝視してしまう。
最後のボタンを外すと、シャツの裾が左右に割れた。そこからのぞく傷跡に、息を呑む。
右脇腹に、10センチはあろうかという、ケロイド状の跡。
手早くシャツを取り去って眺めれば、褐色の肌には刀傷はもちろん、銃槍としか思えない跡が無数に散っていた。
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