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バックグラウンド(士郎side)

「おまえ……」 この傷はいったい何なんだと、龍之介の吸い込まれそうに深い色をたたえた黒曜石の目を見つめた。 士郎の家業もこうした傷と無縁ではなかったが、これはいくら何でもひど過ぎた。 そもそも銃槍など、一高校生の身にどうやってここまで無数につくというのだ? 「……ンな顔すンな。オマエなら見慣れてると思ったンだが、隠した方がよかったか?」 「……いや」 答えるまでに間が空いてしまったのは、その背後に透けて見える得体の知れない闇に、不覚にも恐怖したからだ。 聞いてもおそらくは、はぐらかされる。 簡単に人に言えるようなバックグラウンドでつく種類の傷ではなかった。 自分より遥かに色濃い人生を歩んでいるこの男の目に、たかだか長年の片思い一つで右往左往する自分は、どれほど小さく滑稽に映っているのだろう? 不意に、消え去りたいほど情けなく感じた。 純粋に、男として引け目を感じてしまう。 同時に、今まで単なる性欲の塊で恋敵としか思っていなかった目の前の男に、ほんの少しだけ興味がわいた。 「……ン?」 わずかに首を傾げた龍之介が、不意に笑う。 「初めてまともに、視線が合った気がすンな」 屈託のない笑顔に、心臓が跳ねた。 「……っ」 何をバカなと、慌てて目をそらす。 そらしたこと自体に負けを感じて、舌打ちした。 「……揺れてるオマエ見ンのは飽きねェけど、いい加減脱がしてくんねェの?」 言って、片腕だけでグッと伸びをした。 筋肉が動き、艶のある肌から、甘い毒を内に秘めた漆黒の闇のような香りが立ち上る。 深く吸い込んだ端から酩酊して、知らない場所まで流されてしまいそうな。 トワレなのか、体臭なのか。 やけに甘く危険な香りは、龍之介によく似合っていた。 上半身裸でファスナーを下ろし、下肢をくつろげた姿は、情事の予感、あるいは余韻を色濃く漂わせているようで、ひどく落ち着かない気分になる。 「……ンだよ? ンな色っぽい目で見られたら、風呂どころじゃなくなンだろーが」 「……バカが、さっさと立て」 怪我のせいで肩をすくめられないせいか、眉だけをひょいと上げて、龍之介がベッドから腰を上げた。

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